第三章 捜査

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 室伏がパトカーを運転している。助手席で皆川は考え事をしていた。 「前も思ったんですが、礼愛さんって美人ですよね。あと胡桃さんも可愛かったような」 「捜査にどうでもいい私情を持ち込むな!」 「すみません。ですが、割と事件に関係があるかもしれませんよ」  皆川は呆れて物も言えなかった。  パトカーは萌香の家の前に着いた。二階建ての一軒家で車庫には二台の車が停まっていた。  インターフォンを鳴らすと萌香の父親がドアを開けた。皆川と室伏は警察であることを明かし、萌香を呼ぶよう父親に頼んだ。父親は困惑しながらも、萌香を呼んだ。 「礼愛さんから秘密基地の話を聞きました。案内してもらえませんか?」 「分かりました」  萌香はパトカーの後部座席に座った。バックミラーに俯いている萌香の姿が映る。 「まだ見つかってないんですね。あのとき、早く電話に出ていれば」  電話に出なかったことを萌香は後悔しているようだった。 「念のために聞きますが、電話に出なかったのはどうしてですか?」  皆川が後ろを振り向いた。 「携帯に公衆電話って表示されていたので、知らない人からの電話だと思って出ませんでした。それに、まだ眠くて。でも、胡桃からの電話だって分かったら、ちゃんと出ましたよ」 「なるほど。それでは、質問を変えましょう。先ほど礼愛さんにお尋ねしたのですが、胡桃さんは何か悩みを抱えていたそうです。萌香さんは心当たりありますか?」  萌香はゆっくりと話し始めた。 「胡桃は担任の坂上先生と同棲していたみたいなんです。同じ美術部の野口さんが同棲していることをバラすって胡桃を脅していました。わたしは二人が言い争っているのをこっそり聞いていました」  皆川はメモを取り始めた。 「どうして、その野口さんと胡桃さんが言い争っていたのか分かりますか?」 「野口さんは坂上先生のことが好きなんです。ファンっていうか、一部ではストーカーみたいなことをしてるって噂もあります。だから、胡桃のことを許せなかったんだと思います」  教師との同棲にストーカー。皆川はとんでもない事件の一端に触れたような気がした。 「前に亡くなった梓さんっているじゃないですか? その子、坂上先生のお気に入りの子だったと思います。もしかしたら、野口さんが絡んでいるのかもしれません」 「そんなんでわざわざ人を殺すもんですかな」 「あの子なら、やりかねないです。中学のときにウサギが死んだ事件があって、その犯人も野口さんだったので」  萌香は野口さんが犯人だと囃し立てたが、皆川は鵜吞みにはしなかった。先入観を持ってはならないと自分を戒めた。  住宅街を抜けるとフロントガラスに大きな山が映った。 「あの山です。道なりに行くと右側が森みたいになっています。そこにログハウスがあります」  萌香の言う通り、ポツンとログハウスが建っていた。皆川は室伏と萌香をパトカーに残し、警戒しながらログハウスに近づいた。窓から中を覗くとそこにはテーブルがあるだけだった。  ゆっくりとドアを開け、皆川は「胡桃さん」と呼びかけたが、全く返事はなかった。中に入っても、テーブルがあるだけで手がかりらしきものは皆無だった。  ただの失踪ではない。皆川の刑事としての勘が囁いた。最悪の事態も考えられる。素早い足取りで皆川はパトカーに戻った。
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