32人が本棚に入れています
本棚に追加
皆川は萌香を家にまで送り、「何かあったら、連絡するように」と伝え、パトカーに戻った。
「あんまり可愛くはないですが、よくしゃべる子でしたね」
「お前はイチイチ容姿を判定しなきゃ気が済まんのか」
皆川は室伏の頭を叩いた。
「それにしても驚きでしたね。胡桃さんが担任の先生と同棲だなんて。じゃあ、その坂上のところに行きますか?」
「その前に胡桃さんの親に話を聞こう。室伏、お前がピンチになったら、まずは誰に電話する?」
「いきなりなんですか? 僕だったら、家族に電話します。まあ、どんなピンチかにもよりますが」
「だろ。でも、胡桃さんは家族に電話しなかった。何かおかしいと思わないか」
「確かに。家族の方から警察に電話が来ていないみたいですし。もしかしたら、何も知らない可能性も」
古びたボロアパートの前にパトカーが停まった。室伏がドアを叩くと中から胡桃の母親が顔を出した。
「警察が何の用ですか?」
「胡桃さんのことで伺いたいことがありまして」
室伏が母親に話しかけているうちに、皆川は部屋の奥を覗いた。ゴミ袋が散乱し、僅かではあるが、嫌な臭いがした。
「あの子はここにいないよ。帰った。帰った」
母親は右手を大きく振って、二人を追い払おうとしたが、室伏はこれまでの事情を説明した。
「あの子が事件に巻き込まれて行方不明。そんなの知ったこっちゃないね。あの子はずっと三週間くらい家に帰ってきてないよ」
「三週間も帰ってこなかったのに、心配にならなかったのですか?」
皆川が脇から質問した。胡桃と同じ高校生の娘を持つ皆川にとって母親の心情が理解できなかった。
「あの子ね、邪魔だったの。いなくて清々してる」
「どこにいるか心当たりはありませんか?」
「そんなの知らないね。もういいでしょ。忙しいの」
母親はドアをバタンと閉めた。
二人は周囲の住人にも聞き込みを始めた。住人によってバラツキはあったものの、ここ最近の胡桃はアパートに帰ってきていないようだった。
皆川は母親に怒りを覚えながらも、パトカーに戻った。
「人の親だとは思えない態度だ」
パトカーの窓を開けて、皆川はタバコを吸い始めた。
「署の方で事情でも聞きますか?」
「あの母親が事件に関わっていたとしたら、うまく隠そうとする思うんだがな。余りにも正直だ。娘がいなくなって、清々してるだなんて言うもんかな」
「となると、坂上が今のところ怪しいですね」
室伏がパトカーを発進させようとすると皆川が制止した。
「急にどうしたんですか?」
男が胡桃の部屋のドアを開けている。
「誰だ? アイツは」
皆川は急いでドアを開け、小田嶋に近づいた。警察手帳を見せると小田嶋の目が泳ぎ始めた。
「胡桃さんのことでお話が」
母親がドアから顔を出したが、小田嶋は部屋の中に入ろうとせず、皆川の方へ向き直った。
「胡桃ちゃんがどこにいるか分かったんですか?」
「そもそも、あなたと胡桃さんはどういう関係なんですか?」
「胡桃ちゃんのお母さんの彼氏です。ずっと心配していたんです。胡桃ちゃんがいなくなったから」
「むしろ、胡桃さんがどこに行ったのかを知りたいのは私の方ですよ。何か心当たりは?」
「さあ。もういいですか? すみません」
小田嶋は逃げるように部屋の中に入った。皆川は小田嶋に目星をつけた。
最初のコメントを投稿しよう!