第一章 波紋

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 今日はバイトがない日だった。話のネタを探すために、ネットサーフィンをしているとスマホのバイブが鳴った。  店長(妖怪)とスマホに表示されていた。電話に出ても嫌味を言われ、電話に出なくても後で嫌味を言われる。僕は仕方なく電話に出た。 『草間くん、どうせ空いてるでしょ』 「どうせってなんですか?」 『須藤くんが体調を崩したから、すぐに来てくれる?』 「待ってくだ」  僕がすべてを言い終える前に電話が切れた。  憂鬱な気分で僕がコンビニに行くと店長は裏で弁当を食べていた。香ばしい唐揚げの匂いがする。 「すごいと思わない? この量で四百円だよ」  店長は大きな唐揚げの塊をここぞとばかりに見せつけた。リーズナブルな価格だと思った。 「草間くんみたいにお金のない人にもオススメだよ。カラカラ亭っていうお店なんだ」  店長は嘲るような調子で笑っていた。 「ありがとうございます」  できることなら、その場で店長を殴りつけてやりたい気分だった。  夕方にバイトが終わった。節約のためにウィダーインゼリーやヨーグルトで過ごすこともあるせいか、お腹が鳴った。僕はグーグルマップを起動させ、いつの間にかカラカラ亭に向かっていた。  カラカラ亭には多くの男子学生が並んでいた。暇を潰すために学生たちはスマホを見たり、大声で喋ったりしている。弁当を買い終えた学生が僕の横を通ると香ばしい匂いが漂う。  列の先にはオレンジのバンダナを巻いた女性がいた。その結び目から茶髪のポニーテールが顔を覗かせている。思わず、僕はその女性に見惚れていた。  女性に「どうぞ!」と呼ばれ、僕は緊張した。紺色のエプロンの上にあるネームプレートに「辻田」とあった。 「ご注文どうぞ!」 「すみません」 「この中からお選びください」  チキン南蛮、カレー味、しょうゆ味、おろしダレ。唐揚げの種類が多かった。 「じゃあ、おろしダレで」 「ご飯の量は?」 「小で」  辻田さんは大きな声で「おろしダレの小」と号令をかけた。  学生のアルバイトにも見えるが、体全体から漂う雰囲気はどこか大人びていて気品があった。変な言い方だが、まるで子どものまま大人になったような印象を与える。そのせいで僕よりも年上なのか年下なのか分からなかった。  早速アパートに帰って、唐揚げ弁当を食べた。さっぱりとしたおろしダレと唐揚げの旨味が絡み合う。久々にまともな食事をした。学生たちが並んでまでも買いに行く理由がよく分かる。  それから、僕はカラカラ亭に行くようになった。中毒性があるのか、何度も食べたくなる。  最初の頃、辻田さんは「ありがとうございました」と言うだけだった。けれども、回数を重ねるごとに「いつもありがとうございました」と言ってくれるようになった。毎度、僕が来ていることを認知している証拠だった。
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