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取調室で小田嶋は指を鳴らしていた。不快な音が皆川の怒りを買った。
「三週間ほど前、つまり八月の下旬、あなたはアパートで何をしていましたか?」
「刑事さん、信じてくださいよ。胡桃ちゃんとお酒を飲んでいたんです。それだけですって」
小田嶋は縋るように「信じてください」と繰り返した。
「隣の部屋の方が女の子の悲鳴が聞こえたと言っていましたが、どう答えるつもりですか?」
「だから胡桃ちゃんがハイになって、叫んだんですよ」
「胡桃さんの母親はあなたが胡桃さんに不適切なことをしたと言っていますが?」
「してませんって。どこに証拠があるんですか? 胡桃ちゃん本人に聞いてくださいよ」
「そもそも、どうして胡桃さんは家出をしたんですかね?」
「それも、胡桃ちゃんに聞いてください。オレは何も知りませんから」
被害者だと思われる胡桃本人がいないため、埒が明かなかった。皆川は仕方なく、小田嶋を帰すことにした。小田嶋は取調室を出る際に見せつけるように舌を出して、皆川をからかった。
休憩コーナーで皆川はタバコを吸っている。
「あの男、怪しいですよね」
室伏も小田嶋を疑っていた。
「ただの推測に過ぎないが、胡桃さんが家を出ていった理由はあの男にあると思うんだがな。なにせ、証拠がなくて」
「胡桃さんの父親も母親の交際相手について言ってましたしね」
皆川はタバコを灰皿に力強く擦りつけた。
「次は坂上だな」
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