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コンビニの奥で唐揚げ弁当を食べていると須藤くんがニヤニヤしていた。
「なんか最近の草間さん、元気っすよね? いいことでもあったんっすか?」
「別に何もないよ」
僕が頭を振ると須藤くんがさらに覗き込んできた。
「怪しいっす。カノジョでもできたんっすか?」
「違うから」
「ですよねー」
僕は須藤くんを振り切るようにレジに立った。すると見覚えのある女性がお菓子コーナーでチョコレートを探していた。最初は誰だか判然としなかったが、辻田さんであることが分かった。バンダナを頭に巻いていない辻田さんはどこか新鮮だった。
辻田さんは僕に気づくと軽く会釈をして、僕が立っているレジに並んだ。
「世の中、狭いものですね。こんなところで会うなんて」
「不思議なもんですね」
「いつもありがとうございます。草間さん」
草間さんと呼ばれて心が温かくなった。僕は辻田さんが店を出る様子をずっと目で追いかけていた。
「なるほど。草間さん、恋してるんっすね」
裏の方から須藤くんが顔を出して、何やら不敵な笑みを浮かべている。
「そういうんじゃないよ。行きつけの弁当屋の人だよ」
「ウソをついちゃダメっすよ。普段、レジをしたがらない草間さんがレジをしている。おかしいっすよ」
「だから、違うって!」
僕は少しだけ声を荒げたが、須藤くんは誤解したままだった。
「ああいうのがタイプなんすか? ガキっぽい感じの。オレはもっと年上のお姉さんっぽいのが好きっす」
須藤くんは聞いてもいないのに、自分のタイプを語り始めた。その声は左耳から入って右耳から抜けていった。
「勝手な僕の予想なんですけど、あのお姉さん、なんか性格悪そうな気がするんで気をつけてくださいね」
負け惜しみなのかは分からないが、須藤くんはぴしゃりと言い放った。
「一目見ただけだろ! 何の根拠があって」
「男の勘っす。これでも、草間さんと違っていろんな女の子と付き合ってきたんで、何となく感じるものがあるんっすよ」
「悪いって具体的にどういうこと?」
「そこまではちょっと。ふーん。裏表があるって感じっすかね。ああいうかわいい人ほど裏で何をしてるんだか」
ふざけている。僕は須藤くんの意見を一顧だにしなかった。辻田さんがそんな人だとは思えなかった。
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