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 杉田美都(みと)と大木戸(れん)が交接をはじめて二時間が経とうとしていた。日本宇宙開発機構、それもごく一部の部署にしかアクセスできない極秘データである。ソニーのアクションカムが、空気をよどませないため無数に配置されたサーキュレーターに備え付けられている。    居住モジュール#2は、やがて訪れる無重力下での性行為が一般的になった未来のための実験として使用されている。それは、あくまでフロンティアとしての行為であると、蓮は思っていた。美都にはそんな意識はないだろう。快感原則を優先させているだけだ。    たとえば無重力下での着床は変化するのだろうか。居住モジュール#2の酸素の率は何パーセントの増加が絶頂時の快感に影響するのか。そもそも就寝のときのように、寝袋のようなもので身体を固定しないと腰を使い続けるのに影響があるのではないか。    この様子を隣の実験モジュールで大容量のソリッド・ステート・ドライブ(SSD)に記録している、美都と同じ派閥(クラスター)小出(こいで)新宮(しんぐう)は、異派閥(クラスター)間の性行為が隣のモジュールで行われていることに、吐き気すらおぼえていた。許されざる行為であるのだから。    美都と蓮は、それぞれの派閥(クラスター)の微細な機能を使って、この別れの交わりをさまざまな快感で彩ろうとしていた。蓮が精を放つと、美都の器官がきゅっと彼の性器、それも達したあとの敏感な亀頭を絶妙な圧力で包み込む。そして、美都の子宮が(はだえ)の上からわかる程度、乳白色にぽうっと光る。  一方で蓮も、精液が美都の身体の奥へほとばしる瞬間、射精速度を数倍にも高速化して普通の人間──身体改造者は無改造の人間を「バニラ」と呼んでいたが──には味わえない快楽を感じていた。  美都にしては珍しくあえぎ声は控えめ、背中からハニカム・パターンで構成された羽根のような器官を広げて酸素を吸収する。宇宙ステーションに訪れた当初は赤みがかった髪が顎のあたりでカットされていたのが、今ではボブぐらいになっている。
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