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V
「ねがい」に響いた衝撃すら、大木戸蓮は気づかなかった。いったい瞑想じみた無重力下の身体喪失感はどのぐらいの時間が経ったのだろう……。蓮は日本宇宙開発機構のポロシャツを着て、下は機能的なカーゴパンツを穿いた。
なにかの事故でも起きたのかと思ったら、エアロックの外に宇宙船がドッキングしている。
蓮は警報を切る。
モニターに映るデータを読むと、船籍は米国のスカイラブからやってきた宇宙船だった。
そして、非常事態であることも。
その非常事態の表示に蓮はエアロックを開放、スカイラブからの招かざる客を「ねがい」に入れた。
ありがとう、と流暢な日本語で礼を言ういかにもアングロサクソン然とした宇宙飛行士。もうひとりはユダヤ系だろうか、アングロサクソンよりはぎごちない日本語ではじめまして、とあいさつをした。
アングロサクソン系はトマス、ユダヤ系はカミンスキーと名乗った。二人とも有機生体派だった。
「ここで本当にSSと心中する気なのか、ドク」とトマスが訊く。
「俺は博士ではないが。誰かと勘違いしているんじゃないのか?」蓮の答えにトマスもカミンスキーも笑った。
なにがおかしい、と蓮。
「ミスター・レン、それより何も知らないのか、ちょっとあいさつはこのぐらいにしてお願いがある」
なんだって──?
「まずはミスター・レンの手を借りたい、文字通りの意味で」
蓮が問いただそうとする前に、彼はトマスとカミンスキーに身体を左右から捕まえられ、航行システムの指紋生体認証をパスさせた。
──何をする気だ?
「もうしわけない」
「時間がないのです」とトマスとカミンスキー。蓮は意味がわからない。
トマスとカミンスキーは、スティック型のソリッド・ステート・ドライブを航行システムに接続すると、3……2……1……とカウントダウンをし、二人同時に鍵を回して「ねがい」航行システム情報を書き換えた。
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