V

2/2
前へ
/14ページ
次へ
 カミンスキーは、あとはトマスから話を聞いてくれ、と言い残して宇宙船に戻っていった。少し経つとエンジンの振動が伝わり、「ねがい」が普段とは違う挙動を示していることに気づく。  ──なんのつもりだ?  「本当に何も知らなかったのか、ドク」  「そのドクっていうのも何が言いたいのか、それに知らないって何をだ」  世界が一変してしまった、大転換だ……とトマスはつぶやく。  「ねがい」自体もかなりの速度で星々の中を通常とはちがうルートで航行している。    たった17時間前の出来事なんだ、とトマスは説明をはじめた。  ──まずはヴァチカン内部からリークがあった。  「有機生体派(オルガ)機械改造者(メカノ)の血で血を洗うことすらある対立や分断だが、これは最初から仕組まれていた」  誰に、と蓮。  「とにかく先を話させてくれ、我々は対立を潜在意識レベルで刷り込まれていたんだ……考えてもみてくれ、ドク……有機生体派(オルガ)機械改造者(メカノ)が対立しても意味はない。それどころか、人類はバイオテックとメカニズム、その両方の属性や機能を適宜使い分けてもいいわけだ、わかるか?」  ──言われてみればそうかもしれないな。蓮はうなずいた。  「そして、日本のスラングでは『上級国民』っていうのか……その手の連中は臨機応変にバイオテックとメカニズムを使い分け、加齢を防いだり、寿命を延ばしたりしている。そして有機生体派(オルガ)機械改造者(メカノ)の抗争は、この真実のカモフラージュや壮大な社会実験だったんだ。    リークの直後にローマ法王、そして撒種主義(ディセミナシオニスム)諸国を代表してインドの大統領がリークの内容を否定した」  ──そんなことが……。  問題はここからなんだ、ドク。トマスが言った。と、宇宙船に戻っていったカミンスキーが戻ってきた。蓮に着せる宇宙服を持ってきている。  「その報道でどこかのハッカーが怒り狂ったのだろう、ロシアのタイフーン級原子力潜水艦の操舵と発射システム(VLS)をハックした奴が現れた。何をしたかって? 軌道エレベーターの静止軌道ステーションへ向けてミサイルをぶちかましたんだ」
/14ページ

最初のコメントを投稿しよう!

20人が本棚に入れています
本棚に追加