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カミンスキーは、あとはトマスから話を聞いてくれ、と言い残して宇宙船に戻っていった。少し経つとエンジンの振動が伝わり、「ねがい」が普段とは違う挙動を示していることに気づく。
──なんのつもりだ?
「本当に何も知らなかったのか、ドク」
「そのドクっていうのも何が言いたいのか、それに知らないって何をだ」
世界が一変してしまった、大転換だ……とトマスはつぶやく。
「ねがい」自体もかなりの速度で星々の中を通常とはちがうルートで航行している。
たった17時間前の出来事なんだ、とトマスは説明をはじめた。
──まずはヴァチカン内部からリークがあった。
「有機生体派と機械改造者の血で血を洗うことすらある対立や分断だが、これは最初から仕組まれていた」
誰に、と蓮。
「とにかく先を話させてくれ、我々は対立を潜在意識レベルで刷り込まれていたんだ……考えてもみてくれ、ドク……有機生体派と機械改造者が対立しても意味はない。それどころか、人類はバイオテックとメカニズム、その両方の属性や機能を適宜使い分けてもいいわけだ、わかるか?」
──言われてみればそうかもしれないな。蓮はうなずいた。
「そして、日本のスラングでは『上級国民』っていうのか……その手の連中は臨機応変にバイオテックとメカニズムを使い分け、加齢を防いだり、寿命を延ばしたりしている。そして有機生体派と機械改造者の抗争は、この真実のカモフラージュや壮大な社会実験だったんだ。
リークの直後にローマ法王、そして撒種主義諸国を代表してインドの大統領がリークの内容を否定した」
──そんなことが……。
問題はここからなんだ、ドク。トマスが言った。と、宇宙船に戻っていったカミンスキーが戻ってきた。蓮に着せる宇宙服を持ってきている。
「その報道でどこかのハッカーが怒り狂ったのだろう、ロシアのタイフーン級原子力潜水艦の操舵と発射システムをハックした奴が現れた。何をしたかって? 軌道エレベーターの静止軌道ステーションへ向けてミサイルをぶちかましたんだ」
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