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もしかしたら、一度は軌道高度帯におびただしいスペース・デブリを撒き散らして他国を宇宙事業から撤退させ、その隙になにか新しいデブリの処理方法で、宇宙の覇権も掌握しようとしているのではないか。
「そろそろカウントダウンがはじまるな」とトマス。
「地上まで例のリークで荒れてないかが心配だよ」とカミンスキーが返した。
「日本では派閥の対立がそれほど強くないんだろう?」
トマスが尋ねた。やはり亡命先なので気になるのだろう。
たぶん世界で一番穏便な──ゆるやかな──撒種主義だからな、実態は──と蓮。
カウントダウンが六十を切った。
蓮を含め三人は自然と黙している。
船内のモニターにも、カウントダウンの数字が明滅している。
残り十秒──。
そして零秒で宇宙船はエアロックから切り離され、船内のモニターには「Purge」と表示された。衝撃と振動が宇宙船を包む。
──いよいよだ、とトマス。
これでしばらくは休む暇もないさ、とカミンスキーが答えた。
「ミス・ミト・スギタによろしくな」
ありがとう、蓮はそう返した。
蓮は美都を思い出していた。地上に帰還して、彼女はどうしているのか。宇宙ステーションでのショートは意外なほど似合っていた。
そろそろ大気圏突入だった。宇宙での任務でもっとも過酷な。
美都には「ねがい」で緩慢な自殺を遂げる、そんな言葉を吐いて、結局こうして地球へ還ろうとしている。それも美都には冷やかされそうだ。
「ねがい」の中での実験や、ケープ・カナベラルのアポロ第34発射複合体の廃墟に二人で心、いや魂が震えたあの日。
──杉田美都とはつまるところ、蓮の亡命先なのかもしれない。
【了】
2023.08.11. M.M.
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