III

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 「そうか……このアポロ第34発射複合体(コンプレックス)の廃墟はそのまま人類の暗喩なんだ、人間の身体はもうただの廃墟に過ぎない」  「それはどういう意味なの、あなたが機械改造者(メカノ)だから?」  「いや、このアポロ第34発射複合体(コンプレックス)そのものが告げているんだ。人間には生も死もないし、時間もない。壮大な失敗と、そして栄光。永遠の黄昏(たそがれ)……があるだけだ」  「それはかなり高貴な衰退なの? 落ちぶれた貴族階級のような……」  「衰退とは違うと思ってる。どうも宇宙開発は人類最後の花火のように思える。最後のイノベーションというか」  「そのシンボルがこの複合体(コンプレックス)の廃墟なの?」  「いや、全人類の記憶を納めた墓標だよ」    蓮は左目に映る光景をさらに昔へと遡る。  女王のように天を見上げるサターンロケット、それを支えるアンビリカル・タワー、燃料補給施設、無数のケーブル、ブロックハウス、デフレクター、その周囲で女王に仕える人間たち。    「まるで、これからロケットに乗って宇宙ステーションに行く人の言葉とは思えないわ……ケープ・カナベラルの哲学者どころか、偏屈者、世捨て人、あるいは狂人よ」  ──まぁ、間違ってはいないかもしれない。そう言って蓮は笑った。  そして、蓮の変人ぶりや一般人には意味不明な言説は、一部でカルト的な人気を得ることになる。サブカルチャー系のメディアからは機械改造者(メカノ)のカリスマとして持ち上げられ、またある有機生体派(オルガ)系のメディアには「凡庸な変人」「奇を(てら)っただけ」と痛罵、揶揄された。    「あの噂は本当なのか?」  ええ、と美都は蓮の質問が何をさして言っているのかわかって答えた。  でもまだ二、三年はかかるわ……ひょっとすると、一年か二年でわたしも宇宙へ、そして「ねがい」に搭乗できるかも……。  「任務が建造中の国際宇宙ステーション(ISS)『きぼう』行きになる可能性は?」  「たぶん無いと思うわ」  どうして? と蓮は訝しむ。  「あら、聞かされてないの?」  「なにを」  「極秘任務よ。宇宙での無重力下における人体実験」  美都はウィンクをしてみせた。
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