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蓮は躊躇せず、許可を選ぶ。
カウントダウンがはじまり、零になると「ねがい」全体に軽く衝撃が走り、モニターには「Purge」の文字が大きく表示された。
蓮は去ってゆく回収船を船外カメラで見送ることもなく、いつのまにか自分のテリトリーになってしまった居住モジュール#2へと浮かんでいった。
これでいいんだ、と蓮は納得しながら、居住モジュール#2の灯りをすべて消した。無重力、船外を見られる窓から見える星々、さまざまな機器のLED、だけが蓮を取り囲むすべてだった。ほぼ知覚が剥奪された状態で、蓮は360度自分を包み込む星々の子供となった。船外活動をしたときですら、「ねがい」の各種モジュールや、サッカー場並みの大きさのソーラー・パネルが見えており、この幻覚は実際の船外活動よりも宇宙、その巨大な死の空間を味わうことができた。
機械改造者と有機生体派の対立に先立って、宇宙を体験すると地球に還ってから神がどうのと宗教がかる宇宙飛行士が多かったが、それは欺瞞だと蓮は断罪した。
──ただ、超高度から地球を見ただけで、それが神の視点、神によって聖なる調和を感じるのは安直、通俗に堕しすぎている……。
そう想いながら、いつの間にか蓮は瞑想のように心が落ち着いていく。このまま、緩やかな死を迎えるのではないかと。
だがそれも突然のブザー音と船内を真っ赤に染める警告灯で断ち切られてしまった。
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