貴方を殺して有名になりたい

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「刺さらないように気をつけて、柵を乗り越えてくださいな」 「刑事さんは簡単に言うけど、なかなか難しいですよ」 「いいから、やれよ」 村井刑事の口調が一変した。 「逮捕されたくなかったら、とにかくどんな手段を使ってでも有刺鉄線の柵を乗り越えてホテルの中に侵入しろ。やれよ」 「刑事さん、そもそもあんたの目的は何なんですか。こんな山奥の廃墟に呼び出してどうするつもりなんです。俺を殺すつもりですか」 「殺す? ははは、殺す?」 電話の向こうの村井刑事は笑っている。声を押し殺しながら、笑いすぎて腹が痛くてたまらないといった声色で笑い転げている。 「田口さん、いや、田口。もう全部わかってるんだぞ。そっちこそ私を殺すつもりなんだろう。ドラゴン広島とかいう売人から銃を手に入れたな。警察の監視下にありながら売人から銃を買うなど、馬鹿なことをしたものだ」 笑っている。 村井は知っていたのだ。昨夜田口が再び拳銃を手に入れたことを。 石田探偵が警察に密告したのか。まさかそんなことがあろうはずがない。石田にはそんなことをするメリットが何もない。ではブルーオイスターのバーテンが密告したのか。ドラゴン広島が密告したのか。いやいや、どちらもそんなことをするはずがない。自分の顧客を警察に引き渡したら、自分自身も監獄行きになるのが確実だからだ。 ようするに、村井刑事が優秀だったという、ただそれだけの話なのだ。村井刑事は田口を尾行し、田口を泳がせた。そして田口が拳銃を手に入れる様子を物陰に潜んでじっと見つめていたのだ。 「大金を払ってまでしてわざわざ拳銃を買うとは、よほど死にたいらしいな、まあいいだろう。そんなに死にたいならお望み通り射殺してやるよ。何しろこっちは警察だからな。銃で武装した凶悪犯を射殺したところで、それは正当な職務行為だ。誰も私を責めはしない。鉛弾をぶち込んでぶっ殺してやるから首を洗って待ってろ。いいか田口、逃げるなよ。もしもバックレやがったら、おまえを全国指名手配してやるからな。警察を舐めんじゃねえぞ」 電話は切れた。 「あの野郎」 田口はますます殺意をたぎらせ、怒りで顔を真っ赤にしながら有刺鉄線の柵を乗り越えた。 村井を必ず撃ち殺してやる。 現職の警官を殺害したら極刑だ。田口もそれは百も承知だ。だが捕まらなければいいのだ。 「殺して、逃げきってやる」 田口は廃墟となったホテルの玄関の扉を開けた。施錠されていない。というよりも、鍵がぶち破られている。扉の鍵が壊された痕跡を見た。扉をこじ開けた跡がまだ新しい。すなわち、村井はホテルの廃墟の中にすでに居て、田口が到着するのを待ち伏せているのだ。ならば話は早い。どの部屋に潜んでいるのか知らないが、見つけ出して蜂の巣にしてやる。
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