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田口は端から順番に部屋の扉を押して開けて、内部を見て回った。どの部屋も間取りは同じだ。内開きの扉を押して開けるとすぐバスルームとトイレと洗面台がある。その奥に広がる部屋にはかつてベッドだった残骸がある。
内開きの扉を、音を立てずそっと押して開けて部屋に入り、バスルームも覗く。工場の流れ作業のように単純かつ単調な作業だが、酷く緊張を強いられる作業ではあった。何しろ生命がかかっている。一瞬の判断の誤りが、そのまま死へと直結する。
生き残るのは俺だ。
田口は自らに繰り返し言い聞かせて鼓舞しながら、各部屋の探索を繰り返して行った。
ふいに、携帯電話が、着信音をけたたましく鳴らした。
村井刑事からだ。
「くそっ。しまった」
電源を切っておくべきだった。田口は携帯電話を左手に握り締めて、慌てて電源をオフにした。だがもう遅い。今の着信音によって、こちらの大体の居場所を村井刑事に知られてしまった。不意打ちするつもりでいたが、立場が逆転だ。田口は村井がどこに潜んでいるか知らないが、村井は田口の居場所を把握した。確実に。
今更ながら、田口はもうひとつの携帯電話の電源も落とした。
そのときだった。
前方、廊下の端に、黒っぽい背広に身を包んだ男の影が見えたと思ったら、瞬く間に銃声が轟いた。田口のすぐ近くの壁に着弾して、石膏ボードの破片が飛び散った。
田口は姿勢を低くした。
前方の人影は廊下から姿を消した。
生の銃声を耳にするのは生まれて以来、はじめてだった。間近の壁を真っ直ぐぶち抜いた銃弾が発した衝撃波が、田口の緊張を否応なしに昂らせてゆく。
全身を駆け巡るアドレナリンを感じながら、田口は人影が消えた辺りに駆け寄った。
非常階段に抜けた。一階へ逃げたのか。あるいは三階か。
三階から物音がした。
田口は身を低くしながら、三階へ向けて階段を一段一段踏みしめ、ゆっくりと上がっていった。
壁に身を潜める。呼吸を整えた。
チャーターアームズ・アンダーカバー三十八口径回転式五連発の撃鉄に親指を添えて、音を立てぬようにゆっくり慎重に起こした。シングルアクションでの撃発準備が整った。これで初弾は軽い力で引き金を引いて撃てる。ただし二発目以降はいちいち撃鉄を起こしてシングルアクションにする余裕はないから、引き金が重くなるダブルアクションでの撃発となる。
三階廊下。壁の向こう側に、確かに人の気配を感じる。ガタガタと物音が鳴った。
村井刑事――誘い込むつもりなのか。
飛び出して、真正面から撃ち合ったら果たして勝算はあるのか――わからない。
だがこのまま怖じ気づいて踵を返して逃げ帰ったりしたら、村井刑事は錦の御旗よろしく逮捕状を掲げて田口の前に現れるだろう。それもまたぞっとする話だった。
逃げるわけには行かない。
田口は壁の向こうに飛び出した。
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