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第6話
霧島と京哉は一緒に飛び出してタタキたちに駆け寄ると、サブマシンガンとハンドガンを蹴り飛ばして距離を取らせた。
ここまではセオリー通りであとはタタキ三名の止血処置でもしてやるかと、こんな所で人殺しする趣味のない二人は相談する。
だが脅威が去ったと思い込んで安堵し、応急処置の材料はないかと二人が辺りを見渡した時、機体が不穏な軋みを上げた。ガタガタと揺れまで起こすに至って二人は操縦席へと走る。
しかし空いた二つの操縦席と互いの顔を探るように見比べたが、当然ながら二人とも飛行機の操縦方法など知らない。
二人は噛みつくように怒鳴り合った。
「ちょっと、どうするんですかっ!」
「私に訊くな! というより奴らはまだ生きている筈だ!」
焦って後部に駆け戻る。だがタタキに化けたパイロットもコ・パイも撃たれたショックと失血で殆ど意識がなかった。文字通り叩き起こそうと京哉がコ・パイに容赦ない往復ビンタを食らわせながら喚く。
「全く、もう! 忍さん、貴方の気が短いからですよっ!」
「何故私だけのせいにするんだ、お前だって撃っただろう!」
「僕が撃ったのはCAです! この場合百パーセント貴方が悪いじゃないですか!」
「三分の二で私が撃ったのが偶然パイロットとコ・パイだっただけで……うわっ!」
明らかにガタつきが酷くなり、舌を噛みそうになって二人は黙った。そこで機が急激に降下しているのに気付く。慌てて二人はまたパイロット席へと走り、早い者勝ちで京哉はコ・パイの右席に座った。嫌な顔をした霧島がしぶしぶパイロット席である左席に収まる。
「あのう、本当にどうするんです?」
「どうするって急降下しているんだ。そういう時はこれを引くに決まっている」
操縦桿らしきものを霧島は引いた。すると遠慮なく引きすぎたのか、妙な警告音が鳴り出した上に機は完全に安定を失い、振動が酷くなっただけでなく左右にロールし始める。
縋るものを求めて京哉までもが操縦桿を握った。本人としては掴まっただけだが事実としては更に引いたことになる。
「わっ、わああ、何これ、貴方が余計なことするから!」
「また私のせいか、お前が握っているのは何だ!」
事実として霧島が操縦桿を弄ったためにオートパイロットが解除されたのだ。警告音はそれを知らせる音だった。しかし何も知らない二人は手にびっしょりと汗をかきながら減らない口で罵り合う。警告音すら聞こえない大声での大喧嘩だ。
「そうですよ、忍さんのせいですよっ! 知ったかぶりして勝手に操作して!」
「これでも充分、練習は積んでいるんだぞ! お前よりはまだマシだ!」
「練習ったって職務をサボってノートパソコンでやってるオンライン空戦ゲームじゃないですか、ふざけないで……ってゆうか、忍さんは船の操舵ができるんだから飛行機くらい操縦できるんじゃないですか! やって下さい、ほら、早くっ!」
確かに一級小型船舶操縦士の資格を持っている霧島だが、コックピット内を見回すに船と共通する操縦システムなど何処にも見当たらない。足元のペダルも踏んづける根性などなかった。座っているだけで大量の汗をかき無駄にカロリー消費する。
「あああ、もう、どうするんですか!」
「どうするって、おい、本気で拙いぞ、これは」
もはや宙に浮いているのが奇跡と思えるような機動に加えて、もっと不穏な警告音が鳴り響き始めていた。同時に【Pull Up】【Pull Up】と機器が喚き出し、暫し口を閉じた二人は再び操縦桿を引く。冷や汗が背を伝うのを感じながら霧島は京哉の方を見た。
「京哉、シートベルトしておけ!」
「ん、忍さんもね!」
機器の喚きも警告音も、しゃっくりするような機体のガタつきやロールも収まらない。だがこんな所で墜落死など人生設計にない二人だ。
そこで霧島はやっと一縷の望みを見出す。ノートパソコンの空戦ゲームから大学時代に嵌ったことのあるゲームセンターのフライトシミュレーションゲームに頭を切り換えたのだ。
しかしもう海面が目前にまで迫っていた。できるだけハードにならないようグライダー降下させて着水するしかない。慎重に機首上げして空気抵抗で機速を落とす。
そこでスナイパーの目を持つ京哉が声を上げた。
「あっ、あそこに島が見えます! 二時の方向、多分十キロくらい先!」
「何処だ、見えんぞ……おっ、あれか!」
油圧もやられたのか異様に重たくなった操縦桿を腕力で捩じ伏せ、霧島は島と思しきものが見えた方向へと小型機を持って行く。機首上げしていたが小型機はとんでもない速度で殆ど墜落しつつあった。
島まで十キロくらいと京哉は言ったが、今の霧島には再度それを確認する余裕はなく、それもたった数秒で飛びすぎてしまいそうな勢いである。
けれど幸いと言っていいものか、島の直前で機は航空機であることを辞めた。
強烈なGが二人の躰にシートベルトのショルダーハーネスを食い込ませる。霧島と京哉は無意識に手を伸ばして握り合った。機体と共に五体バラバラになりそうな衝撃が襲う。
そして二度目に激しい衝撃を食らった二人は、脳震盪を起こして失神した。
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