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どうやって部屋に戻ってきたのは覚えていない。
宮前が俺の匂いの話をしていたのは、ヒカルの匂いのことだったんだと、今更になって気がついた。たぶんヒカルの残り香が俺についていたんだろう。
運命の番の匂いを、宮前は本能で感じ取っていたんだ。
——あいつは俺を介してヒカルを見ていた。ヒカルを俺から奪うために俺に近づいたんだ。
俺は今日からオメガに捨てられたアルファで、目の前で他のアルファに恋人を奪われて何もできなかった無能な男だ。
何もかもが虚しくて悔しくて、俺は近くにあったものを掴んで投げた。やたらめったら投げて蹴って壊し、壁を殴って穴を開けた。
……でもめちゃくちゃになった部屋を見てもスッキリなどするはずもなく。さらに虚しくなるだけで、すぐにやめた。
ヒカルとはその後、すぐに婚約解消になった。
元々仮での婚約ではあったんだけど、大学卒業したら結婚に向けて動く予定だったし、もう決まっていたようなものだ。
両親もそのつもりでいたし、ヒカルの親だってそのつもりだったはずだ。
——両家、そして宮前の家とどういうことを話し合ったのかは俺は知らない。ただわかっているのはヒカルが宮前の家に行ったってこと。そしてヒカルの両親もこの街から引っ越してどこかへ行ってしまったから、もうこの街で保本家の人間と会うこともない。
なんだかもう誰にも会いたくなくて、俺は卒業式にも出ず、しばらく家に引きこもってた。
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