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我が家の両親は2人ともアルファなんだけど、父よりも母のほうがヒエラルキーは上。誰も逆らえない。現に親父は隣ですっかり萎縮し、俺に申し訳なさそうな顔を向けている。これはもう決定事項ってことだな。
(俺が養子……)
養子に出れば、俺はこの志久の家の人間ではなくなってしまう。
でも姓は変わっても志久の家の仕事を継いでいいなら、それならそれはありかもしれない。
それに相手はあの斗貴哉様だぞ!?
……宮前のお古をもらうようで癪に障るが、あいつだって俺のお古をもらったようなもんなんだからな。
ヒカルと結婚するよりも斗貴哉様と結婚したほうが、エリートの俺に相応しい人生が送れるのは確実だし。かなり年上ってのも気にはなるけど、斗貴哉様も初婚な訳だし、体が弱くてずっと家で療養されていたというのが本当なら、あっちの経験だってそんなにないだろうし……。
何より斗貴哉様という、あんな桁違いに美しい人が隣にいる人生、すごくないか?
「俺、斗貴哉様と婚約する」
「……陽太郎、いいのか」
「うん。いい。婚約解消されて傷ついているのは斗貴哉様も同じだし。こうなったのも運命だと思う。花咲陽太郎って名前も悪くないしな」
「えらい! 陽太郎〜! 養子に行ったって、うちの子には変わりないんだからね。花咲家を乗っ取るくらいの勢いでいきなさい! じゃあ、さっそく先方にお返事するわね!」
本当にいいのかと心配そうな顔の親父の横で、目を輝かせウキウキと早速花咲家に電話をかけ始める母。
これでいい。俺はヒカルのことなんか忘れて、斗貴哉様と順風満帆な人生を歩んで、幸せに暮らすんだ。
母さんが花咲家へ承諾の返事をしてから、斗貴哉様との縁談はとんとん拍子で進んだ。
あとで知った兄貴はすごく反対してくれたけど、俺はもう決めたからそれでいい。
斗貴哉様とは、最初から婚約ありきの見合いをして、ろくにデートもできないまま俺の大学進学後、すぐに婚約式。
それから俺の二十歳の誕生日を待って結婚、となった。
斗貴哉様とは、大正時代に作られたというモダンな料亭の一室で見合いをしたんだけど、雅な室内で静かに佇む斗貴哉様は、そこだけ切り取ればそれこそ一幅の日本画のようで、こんな美しい人とどう話せばいいのかと俺は終始緊張して口篭らせてばかりいた。
そんな俺でも斗貴哉様は優しく受け入れてくれ、俺はヒカルのことなんかすっかりと、これっぽっちも思い出すことなんかないくらい夢心地で日々を過ごし、あっという間に結婚式の日を迎えた。
とはいえ式は花咲家の意向で、都内の神社で身内だけで済ませることになったんだけどな。
俺としては和装姿の優雅で美しい斗貴哉様を友人たちに見せびらかせたかったんだけど、まあ俺たちは婚約破棄というケチがついての結婚でもあったので、これはこれで良かったのかもって思ってる。
デートどころかろくに2人っきりで会うこともなく、スピード感溢れる結婚式までの日取りだったんだけど、それはそれで新鮮で、俺は今日のこの日が一層特別な日のように感じていた。
そして式も無事終わった今、俺は風呂上がりのガウンを着て、俺と斗貴哉様の新居となる花咲家別邸にしつらえた寝室にいる。
豪奢で広々とした大正モダンな和洋折衷建築の花咲家本宅とは違い、こちらはこぢんまりとした和風モダン。それでも有名な建築士に建てさせたというだけあって、内装、家具どこをとってもおしゃれ過ぎてため息しか出ない。
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