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「あら、あの子近所の子よ。どうもオメガらしいのよね」
アルファとして生まれた俺は、このアルファ・ベータ・オメガという第三の性のことについては嫌になるほど教え込まれている。
アルファである俺が世の中の誰よりも秀でていて、誰よりも偉くなれる可能性を秘めていることや、将来はオメガと番ってアルファの子供をもうけ、次世代に続く強いアルファを育て、兄貴の下で財閥を支えていくことが俺の使命なのだと、そう小さな頃から叩き込まれていた。
オメガはアルファのお嫁さん。というこうとは俺の将来の嫁候補でもあるということだ。
だから公園にいた子供がオメガと聞いて、幼い俺は強い衝撃を受けた。
そしていてもたってもいられなくなった俺は、親父にすぐに車を止めさせて、公園にいるその子供——まあそれがヒカルだったんだけど、そのヒカルのところに走っていって、持っていたお菓子を差し出した。
ヒカルにやったお菓子。それはその日行ったレストランのパティシエが作ったクッキーで、レストランで食事をしないと貰えない特別なお菓子。その辺のちんけな街の洋菓子屋とは一線を画し、貧乏人には縁のないものだ。
ホントはお菓子なんてやる予定じゃなかったんだけどな。その日のお菓子は俺の好きな、でかいチョコが乗ったクッキーだったし。
でもその時ヒカルの着てた服が衝撃的なボロさで、「こいつはものすっごい貧乏だ」って子供ながらに悟った俺は、きっと腹が減っているだろうと思って手に持っていたお菓子を差し出したんだ。
だってそうだろ? 俺はアルファなんだぜ? 弱いやつは守ってやらねーとな。
それになかなか食べられない珍しいお菓子もらって、喜ばないヤツなんかないだろ。
そう思って「やる」と俺が差し出したお菓子をヒカルはすぐには受け取らず、お菓子じゃなく俺のほうをぼんやりとした表情で見上げていた。
ヒカルは状況判断能力が鈍いから、すぐには理解できなかったのかもな。
なんだかぼーっとしたヤツだなって思ったけど、でもその後「ありがと」って言ってニコッと笑ったヒカルの顔は今でもはっきりと覚えている。
ヒカルの笑顔。それはまっ暗い公園にパッと光り輝く星が落ちたような衝撃で、クラスで一番人気のみさちゃんなんかよりずっとずっと可愛くて、絵本で見るお姫様のようだった。
あんなボロい服でボサボサ髪なのに、俺にはそう見えたんだ。絶対に運命だと思った。
その日からだ。俺とヒカルが遊ぶようになったのは。
公立で習い事もなんもしてないヒカルと私立で習い事ぎっしりだった俺とでは、遊ぼうにも放課後なかなかタイミングがあわないんだけど、それでも何かあれば会って遊んでさ。
中学のときはちょっと疎遠になりかけたこともあったけど、高校で弱っちいヒカルが変なヤツに絡まれるのもなんだし、俺の腕の中にいれてやんよってことでこうして今は恋人同士、というわけだ。
そんでなんであだ名がなんでニコニコのヒカルくんなんだって話なんだけど、あいつさ、誰に何言われてもえへへってニコニコしてるからなんだよね。
あいつ親が忙しいからか家でも結構ぞんざいに扱われてんだけど、何があってもいいよいいよ大丈夫っていつも笑ってる。最初の出会いも夜の公園だぜ? 小学生がほったらかしにされてさ、笑って済ませていいのかっつーの。
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