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大学で海外いくとかも腹たつし、そんでもってこいつがこんなにわざとらしくいかにも出来る奴みてーに働くから、アルファ性を見る目もハードルめっちゃ上がって、同じアルファなのに暇してる俺の肩身が狭いんだよ! 高校生なんだからもっと遊べよ!!
「あいつちょーしに乗ってんな」
「あ〜、ヨウちん宮前のことめっちゃ嫌ってるよなー」
俺の机の横で、ぎゃははと友人たちが笑う。
ほんとマジ嫌いだわあいつ。
◇
「なあ。あんたなんか香水つけてる?」
「——は?」
もう時期卒業かって時、階段ですれ違い様に宮前がいきなり声をかけてきた。
「つけてっけど何?」
普段ジロジロ見るだけで声なんかかけてこねーくせに、俺はイラッとしてちょっと威圧してやったが、宮前はしれっとしている。こういうところもムカつく。
「——なんていうかその……甘い匂い。たまにつけてるよな。どこの?」
「はあ?」
俺がいつもつけてるのは、スマートな俺にピッタリな爽やかなシトラス系だ。ブランドは変えても、匂いのイメージは統一してる。
今日のはえーっとどこのブランドのだっけ。確かにブランドによってはフルーティな甘い匂いのするヤツもあるけど、今日のは違う。どっちかっていうとウッディでクールな感じ。
だから甘い匂いって言われても、何言ってんだこいつって感じだよ。
「お前、鼻がおかしーんじゃないの? 甘い匂いなんかつけてねーけど」
「……本当か。俺にはするんだが。——そういえばあんた大学どこいくんだ?」
人のことあんた呼ばわりすんじゃねーよ! って内心思いながらも「都内だよ」って答えたら、宮前は「ふーん」だってさ。あいつは海外の大学行くんだろ? どこの大学だろーが自慢にもなんねーから、どこかって聞かれても言いたくねーし。
「結婚は?」
「はぁ?」
けっこんんん〜〜〜〜!?
なんでそんなプライベートなことまでコイツに言わなきゃなんねーんだよ!! ってブチ切れそうになりながらも、はたとそういやコイツは斗貴哉様とどうなったんだって思った。
斗貴哉様はもう30過ぎてるし、子供を産むなら体力的にも早い方がいいからって宮前が大学行く前に結婚って話じゃなかったっけ。
「……俺はまだしねーよ。大学出て、就職してからって決めてんだ。それまでは自由に過ごす。つかおめーこそ、斗貴哉様と結婚じゃなかったのかよ」
”斗貴哉様と結婚”のあたりで、それまでほぼ無表情だった宮前の眉がピクリと動いたのが見えた。
「——斗貴哉のこと知ってるのか。結婚はちょっと先延ばしにしてもらってる。……ちょっと確かめたいことがあってな」
斗貴哉! 呼び捨てかよ! って俺がまたイラッときてると、宮前はなんと俺の腕を掴んでいきなり引き寄せやがった。いきなりでびっくりし過ぎて固まった俺の首筋を、宮前が一瞬クンと嗅いだような気がした。
気のせいか? にしてもああもう近い近い! マジで勘弁してくれ。
「な、何すんだよ!」
「近々あんたの家に行く。明日は土曜で休みだな。あんた明日は家にいるのか」
「は? い、いねえし! 明日は朝からデートで遠出すんだよ。一泊旅行だから明後日もいねーよ!」
「旅行? 恋人か」
「まあな。婚約者みてーなもんだよ。つか、離せよ!」
俺が手を振り解くと、思ったよりあっけなく奴は手を離した。
「てめー! 今度こんなことしたら許さねーからな! 覚えとけ」
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