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 エレインには美麗な婚約者がいる。  名をレナードと言った。サラサラとした白銀の髪に淡い翡翠の瞳が美しい青年だ。体格は均衡が取れた鍛え上げられたもので、背も高い。彼は見た目からすると信じられないが、文官だ。騎士に見えなくもないが。今日も、夜会にてエスコートをしてもらっていた。 「レン、今日も踊るか?」 「いいわ、ナード。あなたは他の令嬢と踊ってきたら?」 「……そんな訳にもいかない、人目もある」  エレインが言ったが、レナードは渋い顔をして断ってくる。それもそうだろうと彼女は思う。美麗な外見のレナードに対してエレインは良くも悪くも普通だった。  地味な栗毛色の真っ直ぐな髪を背中に付く長さまで伸ばし、淡い琥珀色の瞳も相まってパッとしない。顔立ちもよく見たら、綺麗なのだが。やはり、目立たなかった。 「ナード、私はあちらにいるから。ご友人方と話してきたら?」 「レンを置いてか?」 「ナードが心配しすぎなのよ、私は大丈夫だから」  エレインが苦笑いすると、レナードはため息をついた。 「お前はわかっていない、昔から危なっかしい所があったろう。俺からしたら、放ってはおけん」 「だけど」 「若い令嬢が一人でいたら、そっちの方がずっと危険だ。お前が不埒な男に何かされても、文句は言えんぞ」  レナードはそう言ってエレインの手を取った。そのまま、ぎゅっと握る。手を繋いだ状態で夜会が催されている大広間を突っ切った。  しばらく歩くと、エレインの兄が婚約者の令嬢と一緒にいた。 「そんなに俺と一緒にいるのが嫌なら、せめて兄君達といろ。その方が安全だ」 「わかったわよ」 「……おや、エレインにスレア卿じゃないか。どうかしたのかい?」 「ああ、リーガル卿にセルビア嬢。エレインを預けに来た」 「スレア卿、早速ケンカかな?」 「違う、エレインが俺と一緒にいるのを嫌がるんでな。だから、預けに来たんだが」  ちなみにリーガル卿はエレインの兄で名をウェリス・リーガルという。セルビア嬢も名はオリビア・セルビアといった。スレアはレナードの苗字だ。  兄はエレインによく似た真っ直ぐな栗毛色の髪を短く切り揃えている。今は綺麗に撫でつけているが。濃い琥珀色の瞳をしてはいたけど、妹より麗しい美男子だった。  婚約者のオリビアも緩く波打つブロンドの髪に濃い青紫色の瞳が非常に目を引く超がつく美女だ。プロポーションもなかなかであった。 「……スレア卿、エレインさんが怒っていますよ」 「いつもの事だ」 「埋め合わせはしっかりなさいね」  見かねて、オリビアが窘めた。レナードは肩を竦めながらも頷く。そのまま、彼は行ってしまう。 「……んもう、私は小さな子供じゃないのに。今年で十八にはなっているのよ!」 「まあまあ、エレインさん。落ち着いて」 「はい、リア様」  オリビアの愛称で返事をしたら、苦笑いされた。 「エレインさん、とりあえずは。一緒にスイーツでも食べに行きましょう」 「そうですね」 「じゃあ、ウェリス様。行って来ますね」 「ああ、近くにはいるから。何かあったら声をかけてくれ」 「わかりました、では」  オリビアとウェリスはそう言って軽く手を振り合った。エレインはオリビアに付いて行ったのだった。
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