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オリビアと二人でしばらくは、スイーツを楽しんでいた。
エレインは特に彩り豊かなマカロンが気に入り、小皿に幾つか取る。それを食べながら、オリビアと他愛もない話をした。
「……リア様、私ね。ナードが何を考えているかわからないの」
「あら、スレア卿は。あなたを大事に思っているわ。そんなに気落ちしなくても、大丈夫よ」
「そうでしょうか」
エレインはほうと息をついた。彼女は自分の地味な外見と引っ込み思案な性格が昔から、嫌いだった。レナードは華やかな外見と言える。自分は彼に釣り合わない。そう思い、顔を俯けた。オリビアはそんなエレインを見て眉を下げる。心配げに彼女を見た。
「エレインさん、スレア卿にふさわしくなりたいのなら。凛としていなさいな」
「……え?」
「背筋を伸ばして、しゃんとしていたらいいと言っているの。俯きがちになっていては見える物も見えなくなってしまうわ」
オリビアに言われて、エレインは目を瞠る。しばらく、考え込んだ。
「わかりました、リア様の言う通りですね。なるべく、俯くのはやめにします」
「その意気よ、エレインさん」
オリビアは満足したらしく、にっこりと笑う。エレインは再び、マカロンを食べるのだった。
夜会もそろそろ、お開きになり始めた。エレインは兄やオリビアに先に帰る旨を伝える。会場を出て、庭園へと向かう。
(ふう、疲れた。やっと、一人になれたわ)
ほうとため息をついた。空を見上げると、美しい満月がぽっかりと浮かんでいる。なんとはなしに眺めた。すると、後ろから足音が聞こえる。
(……誰?!)
エレインが咄嗟に振り返ると、そこには見知らぬ男性が一人佇んでいた。鮮やかな赤毛に濃い藍色の瞳の麗しい美男子だが。生憎、誰なのかはわからない。
「……失礼、先客がいたとは」
「あ、すみません。ちょっと、人酔いしたみたいで。すぐに立ち去りますから、ご安心くださいませ」
「いえ、迷惑とは言っていませんよ、レディ。私の方こそすぐに立ち去りますから」
そう言って、男性は微笑んだ。鋭く怜悧な目つきが綻んで優しげな雰囲気に変わる。エレインはつい、見惚れてしまう。が、そうしていたら、もう一つ足音が聞こえた。
「レン、そこにいるのか?!」
「……時間切れのようですね、では。レディ」
「あ、待って!」
男性は静かに音もなく、立ち去っていった。エレインが呼び止めようとするも、彼は振り返る事なく行ってしまう。入れ替わりに婚約者のレナードが駆け寄ってきた。
「すまない、遅くなった」
「ナード、そんなに待っていないわ。もしかして、走って来たの?」
「……ああ、そうだ。レンがいないから。探し回ったんだぞ」
レナードはそう言って、息を整えた。エレインは申し訳なくなって彼の首に両腕を回す。背伸びをしないと届かないが。仕方ないと思いながら、抱きつく。
「あの、ごめんなさい」
「レン、いきなりどうした?!」
「これ以外に謝る方法が思いつかなくて」
レナードは最初は驚いていたが。少し経って、ため息をつきながらもエレインの背中に両腕を回した。軽く抱きしめてくれる。
「……レン、本当に心配した。君がいないと気づいた時は、心臓が止まるかと思った」
「……ごめん、ナード。ちゃんと一言伝えておくべきだったわね」
「見つかったから、いい」
レナードの抱きしめる力が強くなった。しばらくはそうしていたのだった。
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