0人が本棚に入れています
本棚に追加
春休みが近づいたある日曜日、詩歩が起きると両親がリビングに隣合って座っていた。
「おはよう、どうしたの?」
真剣な表情を読み取った詩歩は、尋ねながら二人と向き合うように座る。
「詩歩。お父さんの転勤が決まったの」
しばらく続いた沈黙を母親が破った。
「えっ……」
驚きの声が漏れた詩歩だが、何度か単身赴任をしていた父親の転勤を驚いたわけではなく転校できるかもしれないという喜びの声だった。
「四月からなんだが、今回の転勤はお母さんの実家のそばだから家族で行くのも良いんじゃないかって、お母さんと話してたんだ。詩歩には向こうの中学校に転校してもらうことになるんだが、どうだろう?」
「ちょうど進級と同じタイミングだからお母さんたちは良いんじゃないかって思ってるの。答えは、今日出さなくてもいいからね」
両親の話を聞きながらも詩歩の答えはもう決まっていた。
「うん。私、転校しても良いよ」
即答した詩歩に両親は驚きながら顔を見合わせる。
「本当に良いの?」
母親は少し不安そうな表情を見せた。詩歩は頷く。
「まぁ、本人がこう言ってるんだ。転校も良い経験になるんじゃないか」
心配そうな母親とは逆に、父親は前向きに考えているようだ。
「……そうね。おじいちゃんたちもいるし、安心よね」
「うん、新しい学校になっても大丈夫だよ」
まだ不安を拭えていない母親に詩歩は笑顔で話す。
そして、二年生に進級すると同時に詩歩は転校した。
最初のコメントを投稿しよう!