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はじまりの一歩
唯一、詩歩が気を抜ける場所は図書室にだけになっていた。
静かな図書室に入った詩歩は、どこの図書室もあまり生徒は来ないんだと思った。
「でも来ないからこそ、安心するんだけどね」
詩歩は本棚を眺めて歩きながら呟く。
「赤坂さん」
一冊の本を手に取ってパラパラとめくっていると、急に横から声をかけられる。合唱部での不安と千春が来たのかという恐怖で詩歩が構えて横を向くと、そこには一人の女性が立っていた。音楽担当教師の橋浦結子だ。
詩歩は橋浦とは授業でしか面識はなかったが、二十代と若いため生徒に人気のある教師だということを知っていた。
怯えたような顔の詩歩に橋浦は目を丸くしている。
「ご、ごめんね。驚かせるつもりはなかったの」
「……先生。こちらこそ、お、驚いて、ごめんなさい」
お互い気まずくなって頭を下げた。
それから、しばらく沈黙が続くが、橋浦が話を切り出す。
「少しあなたと話がしたいの。良いかな?」
「私、ですか?……良いですけど」
詩歩は疑問に思いながらも頷く。橋浦は安心したように笑った。
「じゃあ、場所変えて話そう」
橋浦は、戸惑う詩歩に手招きをして歩き出す。橋浦のおろしている長くまっすぐな髪はどことなく楽しそうに揺れていた。そんな後ろ姿に呆然としていた詩歩は、慌てて橋浦の後を追う。
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