高卒8年目 オフ

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息を整えながら、病院の裏側へ回る。息づかいが落ち着くほど、鼓動がうるさくなる。10年ぶりの再会だ、緊張くらいする。 裏庭には3台のベンチが並んでいて、それぞれを見守るように大木が植えられていた。リハビリの度に通っていたのに、この場所は初めて知った。冷静になってみればリハビリ施設の窓から見えた木がそれなのだが、この時は気付けなかった。 3台あるベンチの真ん中に座っている、女性を見つけたからだ。 横からしか見えないが、白い肌と黒い髪が淡い紫色のパーカーに映えている。 1歩踏み出すと、人の気配を察知したのか、紫色の肩が大きく跳ねた。 逃げられる!! 「待って!」 律儀に座ったまま接近を許すこの女性が誰であるのか、首にかけた名札を見なくても確信していた。 切れ長の目、吸い込まれそうな黒い瞳。薄化粧では隠せていないそばかす。唇の下にある黒子。記憶のままだ。 長くなった髪は後ろで縛られていて、顔周りは亡霊よりほっそりとしていた。律も、大人になっている。そんな、当然のことを悟った。自分の魅力をわかっていない感じがあの看護師に疎まれているのだろうとも、本能的に直感した。 呼び止めたはいいものの、何から話そう。 久しぶり?お前、高1の夏何してたの?そういや俺のとこにお前を名乗る亡霊(?)が来たんだけど、律、お前心当たりあんの? どれも違う気がした。急げばきっと逃げられて、急がなければきっといつか教えてくれる。 ひとつ、息を吐く。両手をズボンで拭うと、鼻で笑われた気がした。チクショウ。 気を取り直して、伺うように見上げてくる瞳と向き合う。 もう逃げんなよ、逃がさねえからな。今回の目的は、それだ。 喉が、焼けそうな程に熱かった。息を吸うのも、切ない。 でも、全ては今日から始まる。亡霊がいなくなった今、ゼロからかもしれない。マイナスからかもしれない。 とにかく錆び付くことはなかった名を声にしようと、唇を開いた。 「律」
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