高1 秋

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甲子園から帰ってきてすぐのオフ、律の家を訪ねた。シニア時代の知り合いに尋ねまくって、ようやく知れた住所。ポストの上に掲げられた「HIDAKA」の表札も、軽自動車の隣に止まった通学自転車も、「女子高生の日高さん」の家に違いなかった。砂を入れた小瓶片手にチャイムを押すと、 「はーい」 と高い声で女の人が出てきた。 「あら、きみは確か...」 グラウンドで見かけたことがある。律が「母さん」と呼んでいた人だ。肩を組んだ時にされた微妙な表情が記憶に残っているが、今ならおばさんの気持ちもわかる気がする。俺にとっては男子中学生同士のじゃれあいに過ぎなかったのだが、母親としてはムスメと男子のセッショクなのだ。やはり、おばさんの表情は今日も固いままだ。 「律さん、いますか。藍だって言えば、わかると思います」 「ごめんなさいね、今出掛けてて」 準備していたような答えだと思った。 「よかったら、お茶でも飲んで待ってる?」 ダアン、と家の2階から大きな音がした。平日の昼間だ、音の主くらい想像がつく。 「…ごめんなさいね」 「…いえ」 やはり家の前には、細身の自転車が手入れされた状態で止まっていた。 あんな居留守ってないだろ。 律お前、野球は好きでいるんじゃなかったのかよ。
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