高1 秋

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うん。顔は可愛いし、スカートは折り上げて履いているし、ケッコーいいかも。 でも、 「ごめんね、今大会中だし」 「たっ、大会終わってからでも…」 「そういうことじゃなくて…。ほら俺、野球ばっかだからさ」 「全然いいよ!私のことは、野球の次でいいから」 この子、オドオドしてると思ってたのに、結構厚かましいな!突然知らないやつから校舎裏に呼び出されたストレスも相まって、ついに我慢の限界が来た。 「野球の次って言うんなら、野球に使う俺の時間ムダにするなよ!」 「何よ!休み時間も野球部でボーッとしてるだけのクセに!」 ずんずんと立ち去る後ろ姿に、ベーっと舌を出す。 「ありゃあ、噂になっちゃうやつだねえ」 「うっせ。勝手に言ってろ」 「でもさっきの子、お前のタイプっぽかったけど?おっぱいも大きかったけど?」 「はあっ⁉︎ケバすぎだろ、化粧臭くてびっくりしたわ」 「…負け惜しみか」 「つーか、勝手に聞いてんじゃねえ!」 怒って見せても、律の亡霊は肩をすくめるだけだった。 「たまたま通りがかっただけだよ。いいじゃねえか、気付かれやしねえんだし」 「あのなあ...」 会うのは第5講義室前以来、10日ぶり。言いたいことも訊きたいことも、増えるばかりだ。今までどうしていたのか、学校に住み着いているのか、それから。 「一昨日の1回戦、ナイスピッチ」 「...おう、見てたのかよ」 「まあな。することもないし」 でも7回の2アウトはバックに感謝だな、って。 「うるせえ、ストーカーじゃねえか」 クックッと肩を揺らして笑った。 「藍が気付いてねえだけだろ、ちゃんと見てるよ」 「あっそ」 目を合せるのはなんとなくむず痒くて、頭ごと背けた。 「なあ、」 亡霊のお前が野球を追いかけているってことは、つまり。 「藍、お前そろそろ昼飯食わねえとマズいんじゃね?さっき2年の教室覗いたとき、キャプテンがスコア見て唸ってたから」 「はっ、マジかよ。あの人来たら飯食いっぱぐれるじゃん!」 やべえ! 必死に教室へ急ぐ。アイツ、絶対笑ってやがった。亡霊でも、律だからな。 というか、話が全部あっちのペースになって、訊きたいことも訊けやしない。今まで会っていた律はあくまでも捕手の律であって、あの亡霊は律の本質ということなのだろうか。 それもこれも、また今度問いただせばいいことだ。アイツ、気付いたらその辺にいるみたいだし。 ダッシュで教室に駆け込んだというのに、先輩は教室に来なかった。文句を言ってやろうにも、『律』が現れることもなかった。
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