彼女

1/5
前へ
/5ページ
次へ
 彼女に初めて会ったのは、高校二年生のときだった。同じクラスになったこともなく、それまでは存在さえ知らなかった。  私は勉強も運動も部活も趣味も全部そこそこ、マイペースに生きる人間で、一つだけこだわりがあるとすれば、たいてい彼氏がいた。振られても振られても、たまには振ることがあってもまた新しい彼氏を作る。隣に誰かいないと寂しい人間で、私一人だと半分しか満たされない心地がしていた。  部活は昔に習っていた名残で書道部に入っていたが、たぶん仲のいい人以外は誰も知らない。週二回活動はあるのだが、私は文化祭前にちょこっと顔を出してさらさらっと書いていただけだった。  あとはたまに気が向いたときに部室に行って書きまくる。無心になれるその瞬間が好きで、書き続けているとも言えた。  ある日、いつもどおりの放課後、彼氏とのんびり下校をしている最中だった。外で並んで大きな声を出す人々がいた。正面玄関から体育館へと続く渡りろう下の横辺りの外庭。  たぶん演劇部で、発声練習というやつだろうが、こんなところで恥ずかしくないのだろうかといつも思ってしまう。まあ、恥ずかしかったら演劇部なんか入らないだろうけど。  部活へ向かう人も帰る人も、何となく演劇部を大きく避けて通りすぎた。声が大きくてうるさいのも理由の一つだが、何となく異質な存在であまり近寄りたくはない。  その中でふと目が合った女の子がいた。黒髪ロングで細く背が高い。演劇部の中だったらダントツでヒロインを演じるタイプだろう。ちらっと見渡したが、他に主役級の女性は見当たらなかった。  彼女は発声練習をしながらも私から目を反らさなかったので、私から自然と目を反らした。それが円華由羽(まどかゆう)との初めての出会いだった。そのときはまだ同じ学年であることも知らなかった。  
/5ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加