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第二話 騎士
王国は、自らの子を食べる獣と同じだ。
自ら決めた”法”を守らないだけではなく、貴族連中が横柄に振舞っている。
帝国も同じ穴の狢だったために、長年に渡って小競り合いを予定調和の様に繰り返していた。
私は、そんなくだらない戦争に終止符を打ちたかった。
国内の不穏分子を掣肘するには力が居る。
私が、第一位の継承権を持っていようとも、追い落とそうとする者たちは多い。私の立場は、万全ではない。父上である陛下がご存命の間に、確固たる地位と足場を確保しなければならない。
それに、私の背後を守らせる従士が必要だ。
駒は揃った、武力に秀でた者。知恵に秀でた者。皆が私に忠誠を誓ってくれている。
だが・・・。私が欲しいと思う最後のピースが見つからなかった。私を守り、私にさえも従わない者。
見つからないまま、王国に侵攻した。
最初の戦いに勝利をおさめて、宮廷貴族共の帰還命令を無視して、戦場を駆け巡った。
部下にと押し付けられた貴族の子弟が、王国の都市で軍規違反を起こし始めた。たるみ始めていた。
「殿下!ご再考を!」
貴族の子弟に泣き付かれた貴族たちが帝国から駆けつけてきた。
ご苦労なことだ。
「軍規違反だ。一考する価値もない。くっ」
薬か?
一部の貴族が、違法薬物を扱っていると聞いたことがある。
「やっと効いたか。女の癖に・・・。おい。姫殿下はお疲れのようだ!」
「貴様ら!」
「あとは、お任せを、貴女の戦果も全部、私たちが頂きましょう。貴女は、明日・・・。卑劣な王国兵に討たれるのです」
私の天幕を見れば、見たことがない者に変っている。
番をしていた者が買収されたか?
不覚。仲間を信じすぎたか?
短剣を取り出して、自分の腿を突き刺す。
その勢いで、貴族たちの首と、従者たちの首を切り落とす。
「誰か!」
「は」
私の意識は、闇に閉ざされた。
報告では、倒れた私を見つけた部下の一人が事情を察して緘口令を発布した。
薬が抜けた私は、軍規違反を起こした者たちを処断した。
王国の王都を半包囲して、半月が経過した。
逃げ出してきた貴族や商人から情報を得て、王都に残っているのは、国王と数名だけだと解った。
王国の命運も、あとわずかだ。
明日。
王国の命運を断ち切る。部下の前で、宣言をする。
やはり、王国も帝国も同じだ。
腐った貴族連中が蔓延っている。豪商と言われる者たちも同じだ。王国を飲み込んだあとは、帝国だ。腐敗の温床である宮廷貴族共を一掃する。
その為にも、最後のピースが必要だ。
---
部下に宣言して、王都に踏み入った。
逃げ出せなかった市民たちが、窓の隙間や路地から私たちを見ている。無様な姿を見せられない。市民を害するつもりもない。
少数で王城に向かう事にした。
部下たちは、捕えた貴族や豪商の屋敷を抑えに行った。中に証拠が残っている可能性もある。
また、王都の入口で炊き出しの指示を出した。
報告では、半年以上も物資が不足していたはずだ。配給を行うように指示しても、豪商や貴族たちが奪い合っていたようだ。腐っている。本当に、一度殺しただけでは足りない連中だ。
王城には簡単に到着した。
門番が残っているのか?
寝ているとは、こんな状況で残っているのも凄いが、寝てしまっているのも凄いな。
「起きろ!」
「あなた方は?」
私たちを見ても驚かない。想像はしていたのだろう。それでも、しっかりと起きて立ち上がった姿は、門番の基本をしっかりと抑えている。
「門を開けろ」
部下の言葉は乱暴だが、甘くみられるわけにはいかない。
「できません。ここは、ファロウズ王国の国王が住まわれる王城です。面会のお約束が無い方をお通しするわけには行きません」
なっ
少数といっても、30名は居るのだぞ?
気でも狂っているのか?
「殺すぞ!」
部下が剣を抜いて門番の首筋を狙う。
他の者たちも剣を抜いている。
無暗に殺す必要はないとは言っているが、門番が剣を抜いたら、そのまま殺すだろう。
門番は、直立の体勢を崩さない。
剣も手に持っているが、門番のスタイルのままだ。
「私も、死にたくはありません。しかし、一度、陛下から”門番”を任されたからには、殺されるからと言って逃げるわけには行きません」
意味が解らない。
死にたくないのなら、門を開ければいい。
「本当に殺すぞ。俺たちは、お前を殺して、門を壊すこともできる」
「解っております。しかし、私にも”門番”としての誇りがあります。貴方たちが、帝国兵としての誇りを持つのと同じです。お引き取り下さい」
”誇り”か?
確かに、部下は”誇り”を持っているのか?
この門番は、殺すには惜しい。
今まで殺してきた貴族や豪商とは違う。本当の騎士だ。
部下を下がらせて、馬上のまま門番の前に出る。
「約束はどうしたら取れる?」
私の声を聞いて、眉を動かしたが、すぐに表情を戻した。
声を聞けば、私が”女”であることもわかるだろう。帝国の文様を鎧に刻んでいることで、私の身分もわかるだろう。
「所定の手続きがあります。王国では、これが”法”です」
”法”か、私のことを知っていて、”法”を持ち出したのかもしれない。
「相分かった。手続きを教えていただけるか?」
「それは、私の権限では行えません」
「では、どうしたら?」
「わかりました。ここでお待ちいただけますか?詳しい者が居るか確認してまいります」
「お手数をおかけするが、頼めるか?」
「はい」
どこまでも無礼な男だ。
だが、心地よい無礼だ。
その後、門番が連れてきた者たちは、王城に残っていた者たちだ。
話を聞けば、上司が逃げ出したが、自分たちは、国民の税で生活をしてきた。死にたくはないが、税で生きてきた者として、陛下からの指示がない限りは、自分の職制の中で動かなければならないと言い切っていた。
気持ちがよい男たちだ。
このような者たちが、軍のトップに居たら、王国のトップを占めていたら、立場は逆になっていただろう。
命運を司る神は、私に何をお望みなのだ?
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