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第三話 門番と騎士
「貴殿が居てくれたから、私は安心できる」
「陛下。ありがたきお言葉。しかし、私は門番としての職責を果たしているだけです」
「わかっている。私が、帝国を倒せたのも、貴殿を得たからだ」
「それは違います。陛下。私は、陛下が住まう場所を守る門番です。それ以上でも、それ未満でもありません」
「そうだな」
私は、王国で最後のピースを見つけた。
彼の名は、”キール=デ・ファロウズ”。王国の名前と同じ”姓”を持つ人物だ。
キールは、何時になったら、私からの求婚を受けてくれるのだろう。元王国国王の許可は出ているのに・・・。
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門番の男から紹介された男たちに手順の詳細を聞いた。
6回に渡って、約束が取り次げないと言葉を貰った。
「オリビア殿下。陛下が”明後日なら大丈夫だ”という伝言をお預かりしました」
「門番殿には、面倒をおかけした」
「私の職責です。オリビア殿下は、手順を守られたのです」
「・・・」
私が立ち去ろうとしたら、門が開く音がした。
何度か聞いているが、このタイミングで開けられるとは思っていなかった。
振り返った私を、門番はいつもの体勢から、深々と頭を下げた。
「(・・・・)」
門番が何と言ったのか聞き取れなかった。
聞き取れなかったが、頭を上げた門番の表情が、今までと違っていた。
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約束の日に、私は数名の部下を連れて、王城に向った。
部下の中には、強硬論を唱える者も多かったが、ここまで来て強硬しても何も得る事がないと、部下たちを押さえつけた。忠誠心は高いが・・・。
「門番殿」
「オリビア殿下。お約束は?」
「シンシア=デ・ファロウズ陛下との面談の約束だ。お取次ぎを願おう」
「お聞きしております。どうぞ、部下の方々もどうぞ、そのままでお通りください」
「いいのか?」
「はい。陛下から、帯剣のままでよいと言われています。もし、帯剣の必要がなければ、私の職責でお預かりいたします」
「そうか」
「はい。確かにお預かりいたします」
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今日で、王国は終わる。
陛下はどうするのだろう?
帯剣の許可をだした事から、玉座で最後を迎えるのか?
今年ので7歳になる。
逃げ出した前々国王の孫にして、私の義弟。陛下が居たから、私は門番としての職責を全うすることができた。前国王は、金目の物とお気に入りの女中を連れて逃げ出した。父だが、父とは思えない。母を殺して逃げ出した者を父と呼べるわけがない。私への当てつけなのか、義弟に継承権を与えて、王太子に任命していた。そして、私に門番の職責を与えた。義弟を守れと命令を出した。
シンシアは、7歳だが、私よりも賢い。シンシアが平時の王になれば、王国も繁栄した未来が有ったかもしれない。
そんな未来は来ない。
馬の歩く音が聞こえる。
王国を終わらせるために、王城を訪ねて来る。
凛とした佇まいを持つ帝国の騎士だ。
いつものやり取りを行う。
これが最後かと思うと寂しくもある。
陛下から帯剣の許可が出ていると伝えたが、オリビア殿下は剣を私に渡してきた。
驚いたが、オリビア殿下なら、交わした約束をお守り頂けると思っていた。
剣を受け取る手が振るえないように、しっかりと大地を踏みしめる。
私は、陛下の門番だ。陛下の命がある限り、職責を全うするのみ。
どの位の時間が経過したのか?
すでに、陽が傾いている。
「兄上!」
え?
「陛下!このような。それに、兄などと・・・」
「いいのです。兄上。僕は、もう国王ではなくなりました」
「え?」
何が何やら、この数時間で何があった?
朝の段階では、陛下は”最後の王”になることを心に刻んで覚悟を決めておられた。
「兄上。陛下がお待ちです。早く、玉座に向ってください。あっその剣は持っていってください」
「はい」
なんとなく想像していた。
一歩。一歩、踏みしめて歩く。陛下が後ろから着いて来てくれる。恥ずかしい真似は出来ない。
私は、この剣で殺されるのだろう。
それでいい。王国最後の門番として、門以外で死ぬのは本望ではないが、陛下の代わりに、義弟の代わりに死ねるのなら・・・。
玉座には、オリビア殿下が座っている。
義弟がオリビア殿下の前まで行って跪いた。そして、臣下の礼を取る。
「キール。現在の王国は、オリビア陛下が国王だ。陛下に忠誠を誓え」
そうか、シンシアはオリビア殿下に禅譲したのか?
王国の法を持って、王国を統合する。
オリビア殿下の宣言が心を穿つ。
「キール=デ・ファロウズ。余が、オリビア=デ・ファロウズだ。貴殿に、新しい命を与える」
「はっ」
「キール=デ・ファロウズ。余が住まう場所の門番に命じる。いかなる時にも、余の許可なき者を通すな」
「はっ」
私は、陛下から任命された門番だ。
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オリビアは、最後のピースを得た。
王国全土に新しい国王として戴冠したことを通知した。反発した、帝国兵もいたが、7割がオリビアに従った。従うしかなかったのだ。王国として、腐った貴族や豪商が駆逐されている。残ったのは、職責を全うしようとした者たちだ。オリビアは、その者たちをシンシアに預けた。
王国の再建は信じられない速度で進んだ。
”帝国皇帝の崩御”
オリビアの下に届けられた情報だ。続報を聞いて、オリビアの表情が変る。挙兵を決意するには十分な情報だった。
帝国は醜い内戦に突入した。
オリビアが国境に兵を集めても、帝国はまとまった兵力での迎撃が出来ない。
オリビアの進軍を期待する市民まで出てしまっている。
そして、オリビアは帝国の帝都に軍を進めた。
傍らには、王国で手に入れた奇貨が控えていた。
オリビアは、奇貨を得て、自らの信じる道を邁進することが出来た。
二人は出会うべくして出会った。
「キール」
「はい。陛下」
「新たな命だ」
門番は守るべき騎士を得た。
騎士は最高の門番を得た。
二つの国を併呑して尚も二人の歩みは止まらない。
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