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14 食事の問題
「えっと、じゃあ次の呼んでもいいかな?」
なんとかベルと普通に会話しているアーダを見て、アランがそう聞く。
「次のって」
「トーヤとシャンタル、どっちがいいかな」
その名前を聞いてアーダが一瞬小さく体を震わせた気がした。
「えっと、どっちもちょっと困りますよね」
アランが苦笑しながらそう言う。
「そんじゃもう、どっちも一度で済ませましょう」
と、アーダの返事を待たず、2人を一度に呼んだ。
アーダの目の前に、あの不思議な空間でしか見たことがない2人が顔を出した。
1人はずっと包帯と仮面で顔を隠していたトーヤ、そしてもう1人は……
「この方がご先代……」
侍女となった時に、ご挨拶のために謁見の間でお姿を拝見したことはあった。まだ幼く、自我のなかった時代のシャンタル。アーダが遠目から見たその姿は、この国では見ることがない銀色の髪、褐色の肌、そして深い深い緑色の瞳、美しいがまるで生きてはいらっしゃらないような、神の作りし人形のように思えた。
今、初めて成長したシャンタルの姿を目の前で見て、やはり一番に思うことは美しいということだ。だが、今、その美しい顔には表情がある。ほんのりと口角が上がり、優しく微笑んでいる。
そしてその人がしゃべった。
「アーダ、またお世話になるね」
「はい」
アーダは何も考える暇もなくそう答えていた。
「それじゃあ残りはこれな、トーヤ、ルークって言ってた中身がこれです」
「おい」
トーヤがアランに残り物のように扱われたことに抗議しようとしたが、
「あの、初めまして」
アーダがおずおずとトーヤに頭を下げてきたので、トーヤもアーダに向き直り謝罪をした。
「トーヤです。まあ、色々と嘘つく形になったのは事情が事情だけに許してもらえるとありがたい。すみませんでした」
これが謝罪か? と思うような言い方だが、最後にはきちんとそう言って頭を下げた姿を、アーダは好ましいと思った。
「分かりました。トーヤ様、素直な方なんですね」
「え!」
アーダが思わず少し笑いながらそう言ったのに、早速ベルが飛びついた。
「いや、へそまがりの困った親父だ、いで!」
さっそくお約束。
「それが本当の姿なんですね、ベルとトーヤ様の」
そんな2人を見て、アーダが驚いた顔から笑顔になる。なんだろう、今の方がずっといい。そう思った。
「シャンタルもだぞ」
ベルが頭をさすりながらそう言うと、
「そうだねえ」
と、シャンタルがいつものようにのんびりとそう答えた。
「まあ、こんな感じです。これからこいつらのこともよろしく頼みます」
「分かりました」
アーダがアランにそう答えてから、
「どうしましょう」
と、いきなり困った顔になる。
「どうした?」
ベルが心配そうにアーダを覗き込む。
「あの、実は、今日はディレン船長とハリオ様は船にお泊りになられるのと、それからアラン様はシャンタルとお食事のお約束なので、このお部屋の食事はいらないと食事係に伝えてしまいました」
「シャンタルとお食事ぃ!」
ベルが驚いて大きな声でそう言い、急いで口を押さえる。
「なんだよ、そのお食事ってのは」
「いや、実はな」
アランが手短にシャンタルと友達になったこと、文通していることを伝えた。
「ぶんつう……」
「まあ、そういうことになっちまったんだよ。それで、今日は部屋で一人だっつーたら、じゃあお食事をって」
「なんとまあ」
トーヤが面白そうにそう言ってクツクツと笑った。
「ですから、どうしましょう、皆様の分のお食事が用意できないのですが」
「まあいいよ。俺らは1食や2食抜いてもなんてこたあない」
「え~」
不満そうに言ったのはシャンタルだ。
「申し訳ありません!」
アーダが頭を深く下げ、泣きそうになって謝罪をする。
「いやいやいやいや、謝ることねえからな! おれらが勝手に来ただけで、アーダには全然責任ないから!」
急いでベルがそう言うが、アーダにするとこの方はやはりまだ神なのだ。その神に非礼をと思うだけで身が縮む思いなのはどうしようもない。
「おまえが変なこと言うからだぞ!」
「いや、だってご飯がないのは大問題でしょ?」
「あのなあ、いきなり来たのはおれたちだ、それで飯の準備しとけって言う方がまちがってるだろうが」
「う~ん、そうなのかな」
「そうだ!」
ベルが厳しくシャンタルに言うと、
「そうかあ、じゃあ仕方ないねえ。アーダ」
「は、はい!」
「お菓子でもいいから後で何か持ってきてくれる?」
「わ、分かりました!」
と、答えてくれたことからシャンタルもホッとしたようだ。
「悪いな。まあまだ多少の食べるもんは持ってるし、無理はしないでくれよな」
トーヤも笑いながらそう言う。
「びっくりしただろ」
「え、何が?」
「いや、シャンタルだよ」
ベルがシャンタルにめっ、というような目を向けながらアーダに言う。
「こいつ、大体いっつもこんな感じでさ、空気を読むってことできないやつなんだ。なんかあったらおれが叱っとくからさ、許してやってほしい」
「うん、ごめんね」
横からひょこっとシャンタルが、ニコニコした顔でそう言うもので、
「あの、はい、分かりました」
アーダもそう言うしかなくなった。
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