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「外は危ない人が多いから、扉は絶対に開けちゃ駄目だよ」
「うん、分かってる」
「ネネは本当に、良い子だね」
クスリと口許を緩めて、その大きな手をふんわりとあたしの頭の上に乗せた。
整った顔立ちに、どことなく影のある微笑み。スーツ姿のともくんは凄く格好良くて、テレビで見るアイドルだって敵わない。
「いってきます」
「いってらっしゃい、ともくん」
くるりと背中を向けて外へ歩き出して、ガチャリと外側からしか開かない鍵をかけられる。
左手首に手錠をかけられたまま、両手を扉に当てる。ズシリと重いこの扉は内側からは絶対に開けられない。
逃げ出そうなんて思わないのに、ともくんは過度な心配性だ。
あたしの1日は決まっている。
ともくんを玄関で見送って、朝ご飯の片付けをする。
簡単に掃除をして、洗濯は部屋の中に干す。トイレは大丈夫。あたしの動ける範囲内にあるから掃除も洗濯も自分の事は自分できる。
お昼は、ともくんの買ってきてくれたお弁当を食べる。
冷蔵庫の中も好きに食べていいし、リクエストすれば好きなものを何でも買ってきてくれる。
ともくんがあたしのために録画してくれた番組や、ともくんがあたしのために借りてきてくれたDVDを見て過ごす。
何の不自由もない。
くっきりと赤から紫色に変わりつつある痣のあと。
ズシリ。ただ、左手首の拘束具が重くて痛いだけ。
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