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「運命って幽霊みたいよね」
隣の席に立つ蓮見はそんなことを口にした。彼女も混乱しているのかもしれない。
「まあ音は似てるよな」
「いや語感の話じゃなくて。もっと本質的な話よ、川越くん」
自分の席に立つ僕に、彼女は自分の主張を順序立てて説明する。
「運命って目に見えないでしょ? だから本当にそこにあるかなんて誰にもわからないの。実在させるなら信じるしかない。信じればそこにいるし、信じなきゃどこにも存在しない。幽霊とおんなじ」
「じゃあ蓮見さんは信じてるんだね」
「いいえ。私は運命なんか信じない」
「なんでだよ」
僕の声は思いのほか大きく響き、彼女ははじめてこちらに顔を向けた。周りのクラスメイトたちはちらりとも振り向かない。
「なに怒ってるのよ。びっくりした」
「怒ってない。ボケたからツッコんだだけだ」
「私ボケてないけど」
彼女は首を傾げる。本当に意味がわかってなさそうな顔だ。
気付いてないってことも無いだろうが、僕は改めて教えてやる。
「もっと表面的な話だよ、蓮見さん」
僕たちは自分の席に立っていた。
もっと言えば、自分の席の机の天板の上に立っていた。
クラスメイトたちは全員が着席して暗い顔で俯いている。黒板の前に立ってこちら側を向いている担任も、その悲哀に満ちた目で僕たちを捉えることはない。
「僕たちは、幽霊だ」
二人の足元。
教室最後列に並んだ二つの机の上には、まったく同じ花を生けた透明な花瓶がひとつずつ置かれていた。
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