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 現場は思ったよりも生々しかった。  アスファルトに焦げついたタイヤ痕、亀裂が入り傾いている電柱、削り取られた白線、地面に散らばる黒い染み。  復旧作業も行われただろうが、車道と歩道の区別も曖昧な交差点には事件の凄惨さがありありと残されていた。 「こりゃあ無理だな」  着いた瞬間にわかった。こんな規模の事故に巻き込まれたら助かる見込みはないだろう。  それにこの場所は人通りもなく、周りは住宅地の壁で囲われている。担任の話によると僕たちは病院に運ばれたらしいが、その通報もすぐに行われたか怪しい。  こんなところで何かあっても誰にも気付いてもらえないんじゃないかという隔絶感があった。 「なんか、いやな感じね」 「こんなとこ毎日通ってたとは」 「正気の沙汰じゃないわ」  見慣れた交差点を前にして、幽霊が二人揃って怯えていた。  そこでふと気付く。いや視界には入っていたはずだから意識的に目を逸らしていたのかもしれない。現実味がなさすぎるのだ。 「……あそこが僕たちの終わった場所か」  傾いた電柱の根元に色とりどりの花束が置いてあった。  灰色のコンクリートにその色はよく映えていて、命の輝きのようにも思えた。今この場で、この花束だけが生きている。 「なんでこういう場には花を供えるんだろうな」 「綺麗だからじゃない?」 「それだけかよ」 「大事なことよ」  蓮見はいくつもの花束を真っすぐに見つめている。  その瞳に感情はなく、喜んでいるようにも悲しんでいるようにも見えなかった。 「綺麗な花があれば、ちょっとは救われたように見えるじゃない」  もう一度、僕は黒ずんだ染みの上に置かれた美しい花束を見やる。  たしかに目隠しには有効だな、と僕は小さく頷いた。
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