恋、実る

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「もちろんでございます……。礼偉さんはとてもおやさしくしてくださいますし、お邸の皆様にもとても良くしていただいて恐縮なくらいです。でも私……本当に貧しい一般の出でございますし、両親も既に他界しております。礼偉さんのいらっしゃる世界のしきたりなども分からずに足を引っ張ってはいまいかと、こんな私がお側にいたらいつかご迷惑になると……そう思って」  恐縮しきりの玉環であったが、両親はかえってそんな彼女の素直さに惹かれたようであった。 「お嬢さん、そんな心配はご無用だ。あなたが愚息を嫌っているなら話は別だが、もしも好いてくださっているというなら――あなたほど愚息にふさわしい方はいない。いや、こいつにはもったいないくらいお心の綺麗なお嬢さんだ。我々はこの通り裏社会の者だし、あなたが不安に思われるのは当然だと思うが、もしも愚息のことを少しでも好いてくださるのなら――しきたりや環境など気にせずに向き合ってやってはくださらぬか」  父親に続いて母親からもフォローの言葉が掛けられた。 「玉環さん、実はわたくしもこの人と一緒になる前は堅気の家に育ちましたのよ。実家は裕福ではなかったし、社交界などとも縁遠い普通の家庭でしたの。でもこの人に目に掛けてもらって、最初はやはりあなたと同じように迷っていましたわ。私には住む世界が違うし、いろいろなことが務まるとも思えなくてね。でもこの人の情熱に押されて……不安ながらも一緒になりましたけど、今はとても幸せよ。分からないことや不安なことがあっても、わたくしやこの人もおります。どうか周りのことは気にせずに礼偉と向き合ってやっていただけたら嬉しいわ」  両親に揃ってそう言われ、玉環は驚きつつも胸の熱くなる思いでいた。
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