運命の一目惚れ

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 撮影を請け負っている担当者からイメージモデルがダブルブッキングに遭い、今日の撮りに間に合わないと連絡を受けたのは、つい三日前のことだった。それが昨日になって代替えのモデルが見つかったからと急遽連絡が届いたのだ。  企業としては大事な新商品のコマーシャルだ。たった三日で代替えが見つかったと言われても、間に合わせの為に適当なモデルを連れてこられたのでは不本意だ。たまたま時間も取れたことだし、楊自らが確認かたがた撮影現場に出向いて来た――とまあ、そういうわけであった。 「如何でございます? なかなかにいい女でございましょう」  担当者の男が半ば冷や汗ながらもヘコヘコと腰を折っては必死の作り笑顔で愛嬌を遣ってみせる。彼にとっても、まさか頭領(ドン)当人がわざわざ一企業のコマーシャル撮影を気に掛けて現場に足を運んでくるなどとは思ってもおらず、恐縮しきりなのだ。  だが、確かに代替えモデルは見目麗しく、正直なところ本来決まっていたモデルと比べても群を抜く完璧な美女だ。若き獅子もさすがに文句のつけようがないのは認めざるを得ないといったところであった。 「ああ――良いモデルだ。我が社のイメージとして申し分ない。ご苦労であったな」  褒めの他に労いの言葉まで掛けられて、担当者の男はホッと胸を撫で下ろす。 「お気に召していただけて何よりでございます。勿体のうお言葉、痛み入ります」  平身低頭で腰を折った男に対して、楊はもうひと言を付け加えた。
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