399人が本棚に入れています
本棚に追加
運命の一目惚れ
「モデルの調達が間に合ったそうだな」
「これはこれは楊大人! わざわざのお越し、恐縮に存じます」
「いや、構わん。たまたま時間が空いたものでな。それに――今度のCMは我が社の企画部が心血注いだ新商品の宣伝だ。社員たちの熱意に報いる為にも良いものにしてやりたいと思っているのでな」
わずかに口角を上げ薄く微笑まれた唇、大きな漆黒の瞳を包むくっきりとした切れ長の奥二重。凛とした鼻筋に男らしい頬から顎にかけてのフェイスライン、恐ろしいほどに整った顔立ちの男は一八〇センチを優に超える高身長の上、引き締まったボディは見ているだけで溜め息が出そうな男前だ。
腰まで伸びた濃い墨色の髪は濡羽色というくらいに艶を放ち、彼が現れただけで周囲の景色が霞むほどに神々しいオーラを醸し出している。
背後にはお付きの者だろうか、鋭い目つきに思わずたじろいでしまいそうな精悍な男たちを三人ほど連れている。彼らの一団に気付いた周囲の者たちは、皆気もそぞろといった調子で作業の手が止まってしまうほどであった。
それもそのはず、男はここ台湾を治めるマフィアの頂点に立つ頭領だったからだ。
名は楊礼偉、三十代半ば。半年程前に先代である実父からマフィアの組織を継いだばかりの若き獅子である。
彼らの組織では台湾裏社会の統治の他に、活動の資金源の一部として表の企業経営も行なっている。今日はその内のひとつである化粧品会社の新商品に関するコマーシャル撮影が行われていたのである。
◆ ◆ ◆
最初のコメントを投稿しよう!