第1話

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第1話

 病院に戻ったわたしは院長のマクフォール大佐命令で、病室にほぼ軟禁状態となった。五日後だった筈の退院も十日後まで延びてしまった。  お蔭で大攻勢のあと、皆が国連平和維持軍に対して徹底抗戦したことは知っていても、名もない反政府ゲリラの仲間が囚われて拘置所に入れられ、断罪を待つ身になったことを知ったのは数日が経ってからだった。  街の人々はわたしに良くしてくれる。わたしが今、身を寄せているのは元々は消極的ながらも反政府ゲリラ支持者だったバルトという一家だ。ご主人は日干しレンガを作り、奥さんは機織りをして家計を助けている。  バルト家にはクリフォードという十六歳になる男の子と四歳の弟がいた。クリフとはいい友達になれた。クリフは十七歳になったら反政府ゲリラに入るのを夢見ていたらしいけれど、このような状況になって思い悩んでいるようだ。  悩んでいても明るいクリフの声がした。 「ユーリン、早く行かないと面会時間、終わっちゃうぜ!」 「分かってる、ちょっと待って!」  叫んでおいて機織りを教えてくれていた奥さんに一言断り、布を頭から被って肩に巻いた。腰から布袋と水筒を下げるとキッチンを通ってフラットの外に出る。階段を降りると布を被ったクリフが大きな袋を肩から掛けていた。  階段の下のガレージで日干しレンガを作っているご主人と近所の人に会釈をし、クリフと並んで歩き始めた。今日も外は肌が痛いような日差しだけれど、皆と砂漠を放浪していたわたしにとって、このくらいは何でもない。  日干しレンガで出来た迷路のような小径を様々な建物を眺めながら歩く。それらの建物も殆どが日干しレンガかコンクリートブロック造りで時折プレハブ建築が混じっている。  隣国ユベル製のプレハブ建築に住んでいるのは、今回仲間が打倒した前政権の役人が殆どだ。彼らは流動的な状況を戦々恐々として見守っていることだろう。  小径にはお茶を愉しんでいる老人たちや、アヒルの群れ、大きな荷物を担いだ男、袋いっぱいのオレンジを抱えた女性などが見受けられる。  こんな時でも街の人々の生活は変わらない。食べて、繋げていく。  逞しいのは砂漠の民だけではない。いや、このプラーグは砂漠の国。このプラーグ国民は砂漠の大地が故郷である。皆が同じく豆のスープで一日働く逞しい砂漠の民といえるのだ。  ぐるぐると迷路のような小径を歩いて大通りに出た。左方向へと歩を進める。大通りには兵士の姿が目立った。この国に元からいた駐屯地の兵士ではなく、反政府ゲリラ平定のために国連安保理事会が派遣した平和維持軍の精鋭だ。彼らに仲間は捕らえられた。 「俺、やっぱり軍人になろうかな」  兵士を横目で見ながらクリフが呟く。 「どうして? 格好いいとか思ってるでしょ?」 「それもあるけどさ、よその国にも行けそうだから」 「外国にまで行けるのは、よっぽど優秀じゃないとだめじゃないかしら」 「って、ユーリン。俺は優秀に見えない? ちぇっ」  頬を膨らませたクリフは栄養状態のせいもあって十四、五歳にしか見えなくて可愛い。弟ができた気分で彼を引き連れて日干しレンガの大通りを歩いた。
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