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第2話
まもなく右側に広場が見えてくる。
広場というより砂場といった広さなのだが、ここは忌まわしい元大統領の治世の遺物、処刑場だった。つい最近まで反政府ゲリラの皆や彼らに協力した者たちが拷問され、ここで磔の公開処刑にされていたのだ。
だが、あまたの血を吸った砂場にはもう十字架が立つことはない。仲間の功績だ。
更に十五分も行くと今度は右側に金属製のフェンスが現れる。内側に金属の塀があり、ところどころ破れた塀の中から覗いている、幾つかの尖塔の先に玉ねぎのような形の飾りがついた建物は元大統領官邸だった。
紫と金に塗られた趣味の悪いこの官邸の他、中には大統領の親衛隊と呼ばれていたプラーグ第一駐屯地もある。
ここは十年以上も元大統領ダニロ=ブレッヒの牙城だったのだ。反政府ゲリラの仲間が大攻勢をして恐怖政治の施政者であったダニロ=ブレッヒと、大統領の親衛隊長を自認した軍司令官のセドリック=フランセをその座から引きずり下ろすまでは。
仲間はクーデターを成功させ恐怖政治を終わらせた。
しかしそのあと打ち立てようとした新政権が国際社会に認められることはなかった。
国連安保理事会は新たに国連が設置する暫定政権への帰順を一方的かつ高圧的に通牒し、同時に武装解除を求めてきた。従わなければこのプラーグで唯一算出する財源を買い取っていた隣国ユベルも輸入停止すると。
命の期限を切るような脅しだったが、皆は屈せず戦うことを選んだ。
そして激しい徹底抗戦ののちに、生き残った仲間は囚われたのだ。
彼らの処遇はまだ決まっていない。
生き残りながら捕らえられずに済んだ反政府ゲリラの仲間たちが全国民を挙げての嘆願書を国連に提出したのが三日前、更には新政府代表を自らの手で選び出すべく選挙管理委員会を設置し、全国民がこれを支持して署名を得たばかりだった。
じつはこの流れにわたしも大きく関与している。
散在していた反政府ゲリラの皆がまとまりクーデターを起こすに至った経緯には、日本という国からやってきた二人の仲間が重大な役割を果たしてくれた。
お蔭でクーデターそのものは成功したのだ。
けれど新政府代表として反政府ゲリラは認められず、徹底抗戦を決めた時に日本から来た仲間も一緒に戦うと申し出てくれた。
でも反政府ゲリラの仲間が『自分の居場所で見守っていて欲しい』と日本の仲間二人に告げて帰って貰ったのである。
その帰る間際に日本の仲間にわたしは囁かれた。
『絶対に収監されず新大統領選の選挙管理委員会を国民レヴェルで立ち上げろ』と。
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