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第7話(最終話)
皆には内緒で出てきた砂漠で、俺は赤い夕日が沈んでゆくのを眺めていた。
あんな大きなものが空に浮かんでいる仕組みを俺は知らない。
街で生まれて育ったが学校に行ったのは二年だけだった。読み書き算数をやっと覚えたところで反政府ゲリラに加担した両親は十字架にかけられた。
それからあとは砂漠のド真ん中にある村に住む遠い親戚に育てられ、ある日飛び出して反政府ゲリラのグループに入った。ヘリの操縦を体で覚えてずっと飛んできた。
相棒のハミッシュにも負けないヘリ操縦の腕はピカイチだ。ユーリンを乗せてあの夕日が沈むのを眺めるのもいい。
そして満天の星空の下、甘い甘い囁きとキスを……。
と、もう殆ど姿を隠そうとしている夕日を再び眺めた。
(……うーん。約束の時間、間違えたかな、俺?)
約束の時間は日没の十九時半、場所は街外れのプラーグ第四駐屯地前、ここの筈である。解放された仲間たちは、取り敢えず学校へと移動して使っていない教室を間借りした。捕まらなかった旧反政府ゲリラの仲間も集まり、これからのことを討議している段階だ。
その討議をこっそり抜け出し、まずはバザールで花を一輪……と、思ったが、この貧しいプラーグの砂漠で何処にも花は売ってはいなかった。
仕方ないので手にしているのはフレイの実だった。様にならないことこの上ない。
「いや、気持ちの問題だ。そのうち指輪も買えばいい。俺は今に出世するからな」
独り言がやけに淋しく響き、腰の水筒を外してグビリとロキ酒を飲む。
今はまだ国際社会に認められていない新政府だが、その一員たる俺はこう見えても結構真面目に政治について勉強し始めている。きっと末は大臣に上り詰めるに違いない。気配に気付いて振り向いた。エンジン音が近づいてくる。
(おっ、来たか?)
背後の大通りの向こうから四駆がやってきた。だが一台ではない。
(三、四、五……え?)
砂煙を巻き上げ五台もの四駆が目前に停止する。
どやどや降りてきたのはハミッシュにアーサー、ジョセにレズリー、バイヨル、クレリー、アリシア、リサにバルビエもいる。更にあとからジョナサン、マーティン、ルーク、レオ、その他大勢がやってきて中にはアメディオの野郎までいた。
「BGMは俺に任せろ!」
ジャラーンとアメディオがギターをかき鳴らす。そしてジョセに付き添われるようにして、ようやくユーリンが姿を見せた。
「立会人が揃ったわ。さあ、言いなさいよ、キャラハン。ほら、さっさと!」
迫ったのはジョセ、素で訝しげな顔のユーリンを前に俺は冷え込み始めた砂漠の夜より冷たく凍りついていた。
了
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