その1 転生の神殿

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その1 転生の神殿

「ようこそ、『転生の神殿』へ。選ばれし勇者様」  ついに、ついに来たぜ俺の転生人生!  目の前の巫女さんとおぼしき女は、グラビアアイドルも務まりそうな見事な肢体(したい)を白い装束に包み、胸元や(もも)など所々でその肌をさらしている。独り身の男ならとても放っておけない美女だ! 周りからは香炉から漂ってくるらしい気品のある香りが厳粛な空気を演出していた。  巫女さんは俺にひとつの手鏡を差し出した。 「この鏡は、映した相手の実力を明らかにする物です」  ああ、よくある「ステータスオープン!」の代わりかな?  早速自分自身をのぞき込んでみると、レベルのバーグラフが目盛りを振り切っている。マックス99のところ101だ! 限界突破してるぜ! 「あなた様の使命は、世界を破滅させんとする魔王と戦うことです。そのためにまずは準備を整え、『修練の迷宮』にて基本的なことをお学びくださいませ」  巫女さんから宝箱を開くよう促されて、開けてみると凝った装飾が表面を飾るきらびやかな鎧と盾に加えて、質実剛健な鞘に収まった剣が出てきた。剣を鞘から引き抜くと、振りごたえの有る最低限の軽さを持った、しびれそうなほど冷たい輝きを放つ刃が現れた。ぐっと念じると、俺の思念の強さに反応するかのように強い光を放っている。  それらを身につけて、俺は再度鏡をのぞき込んだ。攻撃力も防御力も、やはり限界を振り切っている。  まさに勇者だ!  地味で非モテでぼっちだった俺が、今こうして勇者の剣と光の鎧を身につけて神殿に立っている。ありがち極まりない交通事故での転生なのがちょっとしゃくだが、この晴れ姿を現実世界で馬鹿にしていた他の奴らに見せつけてやりたい!  さらに言われるままに俺は金貨の入った袋を受け取った。そこそこの重さがする。もしこのまま食べて遊べば結構楽しい思いができるかもしれない。しかし俺は選ばれし勇者なんだ、それよりも装備だ!  以前読んだラノベでだいたい何を買えばよいかは知っている。道中にある冒険者のよろず屋で回復薬やロープなど、必要そうな道具を買い込んでおいた。  さあ、冒険人生の始まりだ!  俺は見目麗しい巫女さんに案内されて、修練の迷宮へやってきた。 「何があろうとも、決して『運命』から逃げないでくださいませ。終わりましたら神殿にてお待ちしております」  そんな大げさな言い方をされなくても、限界突破した俺がそんな逃げる訳ないと思った。  俺は薄暗い迷宮へ入り、剣を抜き放って次々と現れる雑魚を切り捨てていった。ご丁寧に、迷ったら床に戦い方のこつらしき文章が湧き出てくる。それに従って敵の攻撃から身をかわしたり、敵の背後から忍び寄って剣を突き立てることを覚えると、戦術の幅が広がって一気に楽しくなってゆく。  さらに剣の届かない飛行する何匹かの敵と出くわしたとき、床に今度はなにやら魔法の使い方なる文章が湧き出てきた。その通りに片手をつきだして念じてみると、手のひらから火球が飛び出して、しかも分裂して敵をまとめて撃ち落としてしまった。すげえ!  最後に出てきた大物にはちょっと傷つけられたが、すぐにまた床に回復魔法の使い方が湧き出てきた。それに従って念じるとあっさりと傷が無かったかのようにふさがってゆく。さらに床に浮かんできた剣技の使い方を教えてくれる文章にしたがって剣を派手にふるうと、華麗な舞を披露するように身体が動き、大物は何度目かの攻撃であっさりと倒れてしまった。大物の死体はエネルギーの奔流らしき物を噴き出しながら消え去っていった。  現れた宝箱を蹴り開けて、中から金貨の入った袋を取り出す。ずっしりと重い。通貨の価値はわからないけれど、しばらく遊んで暮らせそうな量だ。でも俺は勇者だ! そんなことより魔王を倒すのが最優先だ。
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