着地点

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 朝の通学電車に乗り込む。  同じ車両の――今朝も彼女はいつもの場所に立っていた。  僕は高校に入学してから電車で学校に通うようになったのだが、そこで僕は同じ車両の同じところにいつも立っている彼女に気づいた。  彼女も僕と同じく高校生なんだろうけど制服はどこの高校のものかはわからなかった。  だから彼女の名前なんてわかるはずもない。  そこから僕の想像の中で彼女との二人のロマンスが始まった。  ひょっとすると彼女も通学電車の同じところに毎日立っている僕に気づいているのかもしれないぞ。  それがいつしか恋心となって、ちらりちらりとお互いを眺め合うようになったりして――。  運命の二人だ。  って、そんなわけなかった。  僕が通学電車に乗ってから二駅目で彼女の友達がひとり乗って来て、その子と彼女はお喋りを始める。  彼女が僕に気づく時間なんて少ないのだ。  彼女がどの駅から通学電車に乗るのかわからなかったけど、そんなことを知ったらストーカーになってしまいそう。  そうはなりたくない。  想像するだけいいのだ。  あなたを好きな男子が、あなたとの恋のロマンスを想像してます――と。  彼女との自分勝手なロマンスを今朝も楽しんでいたら、瞬間、シンと電車内が静まり、彼女と彼女の友達のお喋りの声だけが僕の耳にはっきりと聴こえた。  僕は意識を彼女たちに向けていたから、瞬間、シンと電車内が静まった中での彼女たちのお喋りの声が僕だけに聴こえたのだ。 「あずさは今日は何か――」  と彼女の友達の声が聞こえた。  あずさ――!  それが彼女の名前なんだ。  知ってしまった。  なんという幸運だ。  これで僕と彼女のロマンスはもっと彩り豊かになるぞ。  ウッキウキ♪の気分で僕はその日を過ごせた。  その翌日。今朝も同じ通学電車の同じ場所に彼女はいた。 (あずささん。おはよう)  僕は昨日偶然知った彼女の名を心の中で言ってみた。  ……なんだか変態っぽくない?  やはり、彼女は彼女だ。名前で呼ぶべきではないと僕は思った。  乗り換えの駅で僕は電車を降りた。彼女もここで乗り換えだ。そこで僕たちは全然違う乗り場を目指すことになる。  そして今日の授業は半日で終わった。  昼間だ。帰りの電車を乗り換えのホームで待つ。  すると、僕の後ろに二人の学生が並んだ。  ちらっと横目で見たら、なんと、彼女とその友達だった。  うおおおおっこんな近距離に立てるなんて。  もう彼女とその友達の会話なんて聞き放題だ。耳に勝手に入ってくる。  ああ、もう、彼女の名前を知った次は好きな音楽番組がどうとかの情報が入ってくる。  僕の想像の中での彼女とのロマンスがどんどん本物に近づいてしまう。  いや待て!  今はそこが重要なのか?  冷静になってこの場を考えてみろ。  これまで帰りの電車で彼女を見かけたことは一度もなかった。  朝の通学電車はいつも彼女は先に乗っている……。  つまり、帰りの電車が同じということは、彼女が乗り降りに使っている駅がわかるってことじゃないか!  ウッホゥ!!  自分が降りる駅を忘れて乗り過ごしちゃうなあ。困ったなあ。  だからストーカーじゃないぞう。  許される言いワケに僕の心は踊った。  よし。座る位置が大事だ。僕からは彼女がよく見えて、彼女からは僕がよく見えない席に座る必要がある。  どこだ、どこだ?  僕は頭を高速回転させてホームに入り込んできた電車を見ると――そうだった、いつものロングシートじゃん。死角に隠れようがない。  平日の昼間だ。乗り降りする客も少なかった。  立っているのも不自然だし、ロングシートに腰を下ろしたら、なんと目の前に彼女と友達が座ったではないか。  どうする僕。
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