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深い海の底に、人魚の国がある。わずかな光がようやく届く、青の世界だ。
美しくて、静かで、平和で……。
「退屈だ」というのが、カイ王子の口癖だった。
海のように青い瞳に、月の光のような銀色の髪をしている。しなやかで強いからだに、エネルギーをもてあましている。仲間の人魚は髪を腰まで伸ばした者が多いが、カイは無造作にナイフで切っていた。柄と鞘に模様が刻まれた美しいナイフで、カイはとても気に入っていた。人間の国で作られたもので、海底に沈んでいた箱から見つけた。
人魚の国はごく小さな国だ。身分の差などもあまり気にしない。だからカイは王子といっても、家来にかしずかれるということもなく、言動にもまったく王子らしさはない。住んでいるのは、不思議な形をした岩の柱に囲まれた、簡素な城である。
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