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「いいか、くれぐれも人間に見つかるんじゃないぞ」
兄のハンスが釘をさす。
カイと同じ色の髪と瞳を持ち、顔立ちもよく似ているが、髪は長く、六歳年上で落ち着きがあり、雰囲気はまるでちがった。
「うるせえな、何度も言わなくてもわかってるよ!」
カイは兄が苦手だ。
幼いころから品行方正で、しきたりを守って暮らすことになんの疑問も抵抗もない。人間にも興味をしめさず、人魚の国が一番と信じきっている。きっと母親の腹の中に若さを置き忘れて生まれたんだろう、自分がその分、二倍もらったんだと、カイは思っている。
カイは十五歳になり、海の上に行くことを初めて許されたところだった。
幼い頃から祖母がよく話してくれる、人間の世界。上の世界には水がなく、泳ぐことができない。だから人間は、しっぽの代わりに足が生えていて、歩くのだそうだ。まるでエビやカニみたいだけど、人間の足は二本しかない。前に、海の底に沈んでいる大理石の像を見たことがあるので、姿形だけは知っていた。美しい少年の像だったが、少し悲しそうな顔をしていたのをよく覚えている。それから人間は、石を積んで家や城をつくり、畑で麦や野菜を育てる。四つ足のけものが野を駆け回り、鳥が空を飛んでいる。早く自分の目で確かめたかった。
カイは祖母のことは大好きだ。好奇心旺盛で、若いころはずいぶん危険な冒険もしたらしい。自分は祖母に似たんだと思う。カイの祖母は、川をのぼって人間の国の中まで入っていき、町や村の様子を間近に見ていたので、人間の生活をよく知っていた。数年前に、女王の位を娘にゆずり、悠々自適に暮らしている。
現女王であるカイの母は、美しく、厳格なところは兄と同じだが、迫力は百倍くらいあってとても怖い。父親は、カイがまだ幼いころに亡くなっていた。
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