第一話 名もなき子でも

1/1
前へ
/3ページ
次へ

第一話 名もなき子でも

 ラント王国の王室には、悪い噂があった。 それは、双子が生まれたら国に災いが起こると古くから恐れられていた。  まだうら若い国王と王妃の元に悲劇が起きるなど知るよしもなかった。  王妃は、身籠りやがて男女の双子を出産した。  国王は、王子と王女のうち王子だけを育てるようにと決めてしまった。 「名前を付けてあげることもできないの。生んでしまってごめんなさい」  王妃は、生まれた娘を抱き上げて一晩中泣いていた。それは、いずれ訪れる結末を知っているから故の涙だった。 「今は、泣きなさい。私もどうすることもできないんだ。許しておくれ」  王は、娘を手放す以外方法はないのだと悟った。  数日後、娘は忌み子として殺されるはずだった。 「殺すな。せめて命だけは救けてあげなければ」 国王に命令された兵士が揺り籠を持つ。 *  *  *  *  *  *  *   公園の近くの木の下に揺り籠が置かれていたことに気づいた民衆が通りかかった伯爵に知らせていた。 「カルーゼ伯爵さま、ここに赤子がおりまして。まさかと思いますが・・・」  王女が殺されると聞きつけた、国一の富豪といわれる伯爵は王都を駆けずり回っていたのだ。  「この子は・・・。可愛らしい子ではないか」  伯爵は気づいていたのだ。本当は、その子どもがこの国の王女だということを。 そしてその子どもを育てることに決めたのだった。 「名がないのであれば名付けよう。今日から君は―――。」
/3ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加