本編

6/44

82人が本棚に入れています
本棚に追加
/44ページ
 そればかりをインターネットで検索するようになっていたある日、条件に一致するのではと、発見したのが眞山鉄道だった。そして調べていく内に、青辻の写真サイトに行きついた。初めはそれもまた、死に場所を探しての事だった。  ――どうせ死ぬのならば、最後にこの風景を見てみたい。  槙永はそう考えて、有給休暇を用いて数日の休みを得た。そしてその年の秋が終わる直前に、眞山鉄道に乗車した。実際の風景を見てから、全てを終わらせるつもりだった。  結果、後悔した。  こんなにも綺麗な世界を、利己的な理由で汚したくない。  そう思わせられるほど、心を揺さぶられた。  冷えたその日、眞山鉄道のある駅で降りた槙永は、そこに売られていた青辻の写真集を購入し、ベンチに座って頁を捲った。主に深水駅周辺の風景の写真集だった。そして、他の季節の風景も見たいと願った。ここには、心を煩わせるような他者は誰もいない。ただ自然だけが広がっている。無論いくら田舎とはいえ、そこで生活している人々がいるとは分かっていたが、彼らは槙永の性癖の事など知らない。  ――この世界から消えるのではなく、あの環境から逃げて、ここを終の棲家としたい。  それが、写真集を見ながら槙永が導出した結論で、気づけば頬が濡れていた。駅のベンチで一人俯き、一体いつ以来泣いたのだったのかと考える。他にひと気は無かったから、誰に気づかれるでもなく、声こそ出さなかったが槙永は思う存分泣く事が出来た。  冬になる前には、当時の勤務先に退職願を出した。会社は槙永を引き止めなかった。同時に、滑り込みで眞山鉄道の入社試験を受け、次の春からの勤務が決まった。実家の両親も、槙永が遠方に出ていくと話した時は、どこか安堵した様子だった事を思い出す。 (もう、あれから二年か……)  チーズトーストを食べ終えた槙永は、眺めていた写真集の背表紙から、パソコンへと視線を戻した。眞山鉄道の有人駅は、深水駅と、写真集を購入した五つ先の駅、そして眞山駅の三つだ。中でも写真が多かった深水駅を選んだのは、最も間近で見たいと感じたからだ。
/44ページ

最初のコメントを投稿しよう!

82人が本棚に入れています
本棚に追加