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左ひざと左ひじが、焼けるみたいに痛い。  体育の時間の100メートル走で、カーブで曲がりきれず、気づいたら転んでた。  傷口はちょっと肉が見えていて、もう泣きたい。  でも、ケガをしたのが、絵を描くための右手じゃなくて本当によかった。  体の左半分がうまく動かなくて、また転びそうになるのを、付き添いの保健委員が支えてくれて、よたよたと歩く。  わざわざ校舎に入らなくても、グラウンド側の大きな掃き出し窓から、保健室に入れる。鍵は開いているみたいだ。  保健室の中に、先生がいるのが見えた。眼鏡をかけている、若い女の先生。髪は肩に付くくらいの長さだ。お母さんよりも、担任の先生よりも若い。みんなからは、メガネ先生とか、スドウ先生って呼ばれてる。 「あらら、体育で転んじゃった? こっちで洗おうか」  スドウ先生は、傷に付いた砂や土を水道で洗い流した。そして、傷がすっぽり覆われるサイズの、肌色のブニブニした絆創膏を付けてくれた。 「お風呂もそのまま入れるよ。液が溢れてきたら張り替えて。気になると思うけど、あんまり触らないようにね」  まだズキズキ痛いけど、保健室まで歩いて来る途中よりはだいぶ良くなった。  じつは、保健室にはあまり来たことがない。僕たちがいつも過ごす教室とは雰囲気が違って、棚もベッドもきれいに整理整頓されている。湿布みたいなスッキリした匂いがする。  今は授業中だから、保健室にいるのは、スドウ先生と僕と保健委員の3人だけだ。  あれ、これってチャンスなんじゃないか?  何でも願いがかなう薬の話を思い出す。  でも、2人きりにならないと教えてもらえないはずだ。 「ありがとう、もう大丈夫。少し保健室で休んでくから、先生に伝えてくれる?」  そう言うと、保健委員は安心して先生のところに戻っていった。  保険委員が掃き出し窓を閉めたのを見届けてから、僕は先生のほうに向き直った。
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