オススメのおくすり

1/1
前へ
/1ページ
次へ

オススメのおくすり

 朝晩は冷え込み、昼間との温度差が10度以上ある日が連日続いていた。 「ぶえっくしょ!!」  俺は盛大にくしゃみをする。  時節柄、マスクは常時着用しているため、あまり飛沫は飛んでいないはずだが…… 「ちょっと兄ちゃん、風邪? うつさないでよー」  妹があからさまに嫌そうな顔をする。 俺はズズッと鼻をすする。 「あらやだ、本当に風邪? この間、薬使いきっちゃってないのよ。 ちょうどいいわ、薬局で適当に薬買ってきて」  母が何食わぬ顔で二千円を差し出してきた。 (……え?)  日が暮れるのも早くなり、夏場だと明るい18時でも、ずいぶんと暗かった。  ちゃっかりパシりにされた俺である。  薬局はそんな中、煌々と明かりがついていた。  店内は、外と比べて暖かい。  よくわからないが、薬売場をうろついてみる。 「何かお探しですか?」  ぼーっと眺めていると、いきなり声をかけられた。  白衣に身を包み、店員であることはすぐにわかった。  いや、それよりも…… (かっ、可愛い!!)  めちゃくちゃ可愛い。  小柄で清潔感のある黒髪、目も大きく奇抜すぎないメイク。  これが、本当に大人なのだろうかと疑う程のかわいさである。 「風邪ですか?」  あまりの可愛さに見とれてしまい、次の言葉で我に返った。 「あ、その……熱はなさそうなんですが、くしゃみと鼻水がダラダラと出てきて……」 「最近寒暖差が激しいので、寒暖差アレルギーの方が増えてるんですよー。 お客様もそれと同じようなので、まずは免疫力をつけて下さい」  親切丁寧に説明されるも、やはり終始上の空の俺。  風邪をひかなければ、この人にもであえなかったし、たまにひく分には、風邪、いいなぁ……  俺は熱がないのに、熱を帯びた感覚に陥り、あのお姉さんの言われるがまま、おすすめの免疫アップ品と薬を買って薬局を出る。  冷えた北風が火照る体と心をさますように吹いた。
/1ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加