死霊の館

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子供の時の夢はその時の1回だけ。 でもよく見る夢があるわ。 『もう勘弁してよね』 という感じの夢なの。 ふと気が付くと、あたし両手を後ろで椅子に縛られている。 そして足首もロープで椅子に固定されているのよ。 目の前にいるのは、あたしの婚約者と彼の友達。 何故か3人とも怯えている。 部屋が、グニャリと歪(ゆが)んで揺れ動く。  (地震なの? どうしてあたしは縛られているのよ?……ほどいてよぉ) いつも、 『ほどいてよ』 と叫んでいる。 そして目が覚める。 夢に出てくる、イケメンがあたしの婚約者と姉から聞いていたが、 あたしは見覚えが無かった。 彼は毎日見舞いに来てくれた。 病院には2ヶ月入院していた。 退院後あたしは沼田聖也(婚約者)と別れた。 沼田聖也は3年経過しても、あたしの事を諦めきれないらしい。 彼は私が勤務しているゲーム会社の係長。 本当に彼と婚約していたのだろうか? あたしには信じられなかった。 どう見ても、あたしのタイプではないから。 (事故に遭遇するまでは彼のような男がタイプだったのかな?) 『うげっ』 ここは何処? 『……白線の内側までお下がり下さい』 駅のアナウンスが、聞こえる。 (駅のトイレ。 どうして……確か寝る前の11時頃、冷蔵庫のプリンを食した筈) 『ヒェッ』 べ、便器に手を。 (あたしぃ……潔癖症なのに、こ、これは夢よ、絶対そうよ) あたしは、ぶんぶん頭を振り続けた。 『う、うげっ』 (また、吐いてる) 『嘘!? あたし酔ってるの? 臭い……どうしてよ』 (駅のトイレの便器に両手をついて吐いてる) 『いゃぁ、また吐き気が……うげっ』 アルコールの混じった吐瀉物(としゃぶつ)の、すえた匂いがトイレの中に充満した。 あたしは便器に手をついている左右の手を、交互に見やりながら、 『ふうっ』 と深いため息を洩らした。 (あたしぃ、アルコール類は、一切飲めない身体なのに。 飲むとジンマシンが出る筈。 ……やっぱ変だわ。 これが現実である訳が?) あたしは両手にジンマシンが出てない事を確かめて、首を捻(ひね)った。 あたしは、ふらつきながらトイレのドアを、ゆっくり開けた。 トイレを出て、フラフラしながら歩いていたら突然転んだ。 『い、痛ぁい!』 尾てい骨を思い切りぶつけた。 頭の中を電気が走った。 あたしは歯を食い縛り激痛に耐えた。 尾てい骨を、さすりながら洗面所まで行き顔を洗った。 冷たい水が火照(ほて)った顔を心地よく醒ました。 少しだけ痺(しび)れた感覚が、正常に戻りつつあった。 汚物で汚れた顔に手に掬(すく)った水で、バシャッバシャッと叩きつけた。 『フゥ~』 顔面を突き刺すような水に思わずため息を洩らした。 ふと後方に気配を感じ視線を錆びれた鏡に転じた。 『えっ!?』 (誰の手? あたしの肩のあたりに白い手が……) あたしは反射的に振り返った。 (そ、そんな馬鹿な。誰もいないなんて?) 『しっかりしてよ!弘美。幻想よ』 私は自分を励ました。 (……でも何故? 全身の毛穴が、チリチリとするのかしら) 『ゴボゴボ』 洗面台の水がせり上がって来る。 水と一緒に長い女の髪の毛が湧き出して来た。 『いゃあぁぁ』 あたしは鏡を見た。 鏡の中のあたしが、唇を歪めてニタリと笑った。 (あたし、やっぱり変だわ。 明日、心療内科でカウンセリング受けよう) 次の日、会社を休んで家の近くの心療内科に行った。 予約なしだったので3時間近く待つ事になるので近くのファミレスに入る。 ファミレスで看護婦から渡された自己診断用紙を開く。 B5用紙3枚に、チェック項目がびっしりあった。 ファミレスで2時間近く費やしてから病院へ戻る。 病院では自分の名前を呼ばれるまで椅子に深く腰掛けて、壁に後頭部をつけた。
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