花が咲いて、恋が実った話

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「……僕、王妃様の薔薇を拝見したいです。もし義姉様がよろしければ庭園を案内していただけませんか?」 「もちろんよ。『愛しの君』はちょうど今が満開でとても綺麗なの。ぜひライナーにも見てもらいたいわ。……でも、明日ね」 「明日?」 「そう、明日よ。ライナーは城に着いたばかりで疲れてるでしょう? この後はゆっくり休んだ方がいいと思うの」 「平気です。僕、ぜんぜん疲れてません」 「気を張っている今はそうかもしれないけど、少しのんびりしてごらんなさい。すぐに瞼が重くなってくるから」 「……そんなことないと思うんですけど……」  母国への思慕ではなくこの国への親しみを見せてくれるのは次期王となるジゼルにとっては嬉しい限りだし、何よりジゼルもこの短時間でライナーにとても惹かれている。本音を言えばもう少し一緒にいたいのだから、納得できない様子のライナーの声を聞いて思わず「庭園へ行こう」と唇を開きかけた。しかしそのとき、間の悪いことに――あるいは良いタイミングで――侍女が部屋に来てしまった。おかげで『弟を心配する姉』という面子は保たれたものの、がっかりした気持ちの方が大きかったのは確かだ。 「またあとでね。夕食のときに会いましょう」 「はい、義姉様」  そう言ってライナーと別れた後からジゼルは夕食の時間が待ち遠しくて仕方なかったのに、時計も、陽も、今日に限って何故だか進みが遅い。  そわそわしながらようやく食事時を迎え、足取りも軽く食堂へ向かったのだが、食卓に用意されている食事はジゼルの分だけ。ライナーの分はない。  怪訝に思いながら左右を見回していると、ライナーの代わりに侍女が現れた。  彼女の告げる「ライナー様はぐっすりお休みになっておられまして」との言葉を、ジゼルは笑いながら「やっぱりね」と言って受け取り、一つまみの残念な気持ちを加えてスープと一緒に飲み下した。
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