65人が本棚に入れています
本棚に追加
『竜の子』
「では、話そうか。――よくお聞き、ジゼル。実はライナーは『竜の子』という出自でね」
「竜の子……」
ジゼルが思わず言葉を繰り返すと、ピエールは片眉をわずかにあげる。
「おや。その反応は知っていた風だね。もしかしてフラヴィから聞いていた?」
「……ええ。お聞きしたわ」
五年前にライナーと会ったとき、ジゼルはフラヴィにも会っている。
そのときフラヴィが教えてくれた話。
それが竜にまつわる話だ。
「実は帝国の皇帝は国主であって国主ではないの。真に帝国を統べるのは人ではなく、一頭の黒い竜よ。この竜はね、皇都にある城の最深部に住んでいるの」
従弟と遊んだ最後の日の夜、ジゼルの部屋を尋ねて来たフラヴィは人払いをしてからそんな話を始めた。意外なことを聞いて呆然とするジゼルを気にすることなく、フラヴィは帝国の話を続ける。
曰く、竜は己が選んだ女性との間に子を成す。
そしてその子が次代の皇帝となる。
つまり帝国の皇帝というのは全員、竜と人の間に生まれた『竜の子』なのだと。
「私は竜のつがい。だから息子は『竜の子』なの。――どう、ジゼル? あなたは従弟が『竜の子』でも仲良くしてくれるかしら?」
「それは、もちろん……」
かすれた声で答えたジゼルは、夢見るような目つきのフラヴィを悲しく見つめた。
最初のコメントを投稿しよう!