花が咲いて、恋が実った話

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「そのきっかけがあの庭園。――ある日ピエールは、庭園にコリンヌを連れて行ったの。『ようやく思い通りの薔薇ができました。私が改良した薔薇をどうか見てください』と言って」 「義父様が薔薇の改良をなさったんですか?」 「そう。黄と紫の絞り模様を持つ小ぶりな薔薇をつくって『(いと)しの(きみ)』という名前をつけたの。ピエールが大好きなコリンヌは、金の髪と紫の瞳を持つ女性だったから」  目を丸くするライナーに向け、ジゼルは微笑む。 「その薔薇、『愛しの君』を見て、お母様はお父様と結婚すると決めたのですって。周囲の方々もお父様の熱意に絆されて、二人のことをお許しになったそうよ」  くすくすと笑いながらジゼルは、周囲が絆された裏には間違いなく呆れも入っていたと思っている。ピエールは次期国王としての勉学などを続ける傍らで自らが望む通りの薔薇を作り出した。彼は体調を崩した日もベッドの上で薔薇に関する本を読み続け、医師に怒られたこともしょっちゅうだったと聞く。 「お母様はそれまで別の花を象徴としていらしたのだけれど、王妃の座に就かれてからは薔薇を……というより、『愛しの君』ただ一つを自分の花とお決めになったのよ」  遠くを見る目つきでジゼルの話を聞いていたライナーは、ほう、と一つ深い吐息を漏らす。 「とても素敵なお話ですね」 「でしょう? 自分をイメージした花なんて作ってもらえたら、どれほど幸せかしらって思うわ」 「そうですね……」  呟いたライナーは真摯な顔を薔薇園に顔を向ける。
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