59人が本棚に入れています
本棚に追加
/96ページ
国内でも新たな王子のことは話題となっていた。
ライナーはまだ花の国に不慣れなため、城下の視察に出るときはピエールかジゼルが必ず付き添いをするのだが、その際には「愛らしい王子殿下」を一目見ようとする民がこぞって集まるためにまるで祭りのような賑わいになる。当のライナーも自身が歓迎されていることは分かるのだろう、微笑みは恥ずかしそうでありながらもとても嬉しそうだった。
もちろんこれは歓迎すべきことだ。民に愛される王族という事実はとてもありがたい。
(ライナーがうちの国に来てくれて本当に良かったわ!)
この一年の間、ジゼルはライナーが花の国にいる事実に何度も感謝をした。
今日も、出会った騎士から「ライナー様の武術」に関する賞賛を聞いてジゼルは良い気分だった。
せっかくだから庭園にいるらしい父にも教えてあげようと思いながら歩いていたジゼルは、厨房近くの部屋でライナーの侍女を見かけた。棚の前で難しい顔をしている彼女は、今日のお茶の時間に出すものを何にするか悩んでいる最中のようだ。
ライナーの侍女ならば何か新しい話があるかもしれない。
そう考えたジゼルは侍女の傍に寄って「ライナーに仕えて困ることはないか」と尋ねてみた。
侍女からは「ありません」との答えが戻って来た。
「ライナー様はとても良い方ですから」
「そう。じゃあ、ライナーに関して気になってる点はない? 何でもいいわよ?」
「何もございません」
しかし口に出した後で、侍女はふと棚から視線を上げる。
最初のコメントを投稿しよう!